2018年6月17日日曜日

クリーム/村上春樹

「文學界」に掲載された村上春樹の3つの短編の2つ目「クリーム」。

十八歳のときのぼくが経験した奇妙な出来事を年下の友人に話す。
ピアノ教室で知り合った女の子から、それほど親しくなかったのに、演奏会に招待される。

浪人中で暇を持て余していたぼくは出席の返事をし、当日、花束を買って会場の神戸の山の上にある建物に時間通りに行くが、リサイタルが行われるような気配は全くなく、建物には鍵がかかっていて人の気配はない。

途方に暮れたぼくは、近くの公園の四阿(あずまや)のベンチに座り、気持ちを落ち着かせようとしているうちに、招待した女の子が自分に手の込んだ嫌がらせをしたのではないか、自分が彼女に憎まれるようなことをしたのではないかという疑念に思いを巡らす。

そして、心のバランスを崩し、過呼吸になってしまったぼくの向かい側のベンチに一人の老人がまっすぐにぼくを見ながら座っていることに気づく...という物語だ。

老人がぼくに説明する「きみの頭はな、むずかしいことを考えるためにある。わからんことをわかるようにするためにある。それがそのまま人生のクリームになるんや。それ以外はな、みんなしょうもないつまらんことばっかりや」という言葉に解があるのだろう。

危機をやり過ごすという方法を書いた小説として、川上未映子の短編「三月の毛糸」と似ていると思う。

この「クリーム」では、「中心がいくつもあって、しかも外周を持たない円」というイメージが、その方法として描かれているが、「三月の毛糸」では、「いやなことがあったり、危険なことが起きたら一瞬でほどけて、ただの毛糸になってその時間をやりすごすのよ」という方法が語られている。

どちらも、たやすい事ではないけれど、こういう対処法をイメージするだけで、心を軽くすることはできるかもしれませんね。


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