2018年6月15日金曜日

風の歌を聴け/村上春樹

村上春樹が、8/5(日)にTokyo FMで、ラジオ番組でディレクター兼ディスクジョッキーを担当するというのを聞いて、彼のデビュー作「風の歌を聴け」を思い出した。

このデビュー作は、東京の大学に通う”僕”が神戸に帰省している1970年8月の短い夏の日々を描いている。行きつけの「ジェイズ・バー」、そこで飲みすぎて介抱したことで関係したレコード店で働いている小指のない彼女、友人の鼠、僕が文章を学んだ作家のデレク・ハートフィールドのエピソード、そして、ラジオのディスクジョッキーが登場する。

約四十年前の小説だが、読んでいて心地よい。
暑い夏の日、すずしい風に吹かれているような気分にひたれる小説だとあらためて思った。

”僕”にビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」のリクエスト曲をプレゼントした女の子がいると電話をかけてきたラジオのディスクジョッキーとのやり取りが面白い。冷房のない放送ブースで暑さにたまりかね、曲の合間に冷たいコーラを飲んで、しゃっくりが止まらなくなってしまったディスクジョッキー。

”僕”が、ラジオ局から送られてきた新しいTシャツを着て、小指のない女の子が働くレコード店で、3枚のLPを買うシーンも好きだ。

洒落た会話と巧みな比喩は、この頃からすでに光っている。

今、誰かにプレゼントするリクエスト曲を流すラジオ番組ってあるのだろうか。
でも、そういう番組もあるかもしれないと思わせる雰囲気が、まだラジオにはあると思う。

昔、「デレク・ハートフィールド」の本ありませんか?と、新宿の紀伊国屋書店の店員に聞いた思い出がなつかしい。

単行本の最後に、あとがきに代えて、ご丁寧に「デレク・ハートフィールド」のオマージュが書かれていて、

「もしデレク・ハートフィールドという作家に出会わなければ小説なんて書かなかったろう、とまで言うつもりはない。けれど、僕の進んだ道が今とはすっかり違ったものになっていたことも確かだと思う。」

とまで言った作家は誰なのか、と考えると、本文でフィッツジェラルドと違う作家であることを明示していることを考えれば、レイモンド・チャンドラーしかいないと個人的に思っている。



「カリフォルニア・ガールズ」の曲と、佐々木マキの表紙は、この小説にぴったりと寄り添っている。

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