2017年12月3日日曜日

トランプ症候群/井上達夫 香山リカ

法哲学者 井上達夫と精神科医 香山リカの対談集。

題名にある通り、トランプ大統領に象徴される時代の特徴、差別、偏見、憎悪、自己中心性、言語の歪曲・壊変について語られているが、読んだ感想としては、題名よりとても広いテーマを扱っている。

・アメリカの覇権
 ジョゼフ・ナイ(国際政治学者)が唱えていたソフトパワー(精神的・思想的指導力)は衰え、圧倒的な軍事力でもって世界に影響力を与える姿勢が明確になってきている。

・アメリカは巨大な田舎者の国家
 クオリティ・ペーパーを読むようなインテリや教養人は一握りで、ほとんどは国際情勢など知らない人たちが多数。
 本音では他国に好戦的に関わりたくないが、ちょっとした感情的な事がきっかけで火が付きやすい。
 アメリカには、民主主義の強さと危険性の両面がある。

・中間層の崩壊
 排他的ナショナリズムの根本原因は経済問題。
 中間階級が崩壊したら本当に危ない(ドイツのナチズム)
 経済のモラルハザードの真の原因は、市場経済のグローバル化ではなく、金持ちによる税逃れ(タックスヘイブン)などの無責任体制。
 保護主義と開発主義(草創期は保護し、競争力がついたら自立する)は違う

・日米安保の誤解
 憲法9条のせいで軍事問題がタブー化され、知識人含め、日米安保の軍事的・政略的実態に対する知識がなさすぎ。アメリカは日米安保から圧倒的な利益を得ている。

・アメリカ政治の衰弱
 トランプが勝ったのはおぞましいことだが、ヒラリー・クリントンが負けたのは正しかった(ウォールストリートとの癒着)。
 民主党は自己改革の圧力を高めなければならない

・オルタナティブ・ファクト(もう一つの真実)
 森友・加計学園をめぐる安部首相、スーダン自衛隊派遣の日報をめぐる稲田元防衛大臣の答弁。言葉というものに中身、重みが全くない。

・断片化する物語
 統合失調症(精神分裂症)の患者が軽症化している傾向があるが、喜ぶべきことではなく、言語能力、思考力が劣化してきて、面白い妄想を語る人がいなくなった。

これ以外にも、井上氏のアメリカ留学時に感じたアメリカ人の愛すべき点など、興味深かったが、井上氏が語っていた

「私は、いま安倍政権批判をしている人たちだけではなくて、安倍政権を支持している国民、その人たちにもアメリカとの関係について本当に考えて欲しいと思う。」

という言葉が重かった。

この本、憲法改正問題などを中心に2冊目も出るのだという。楽しみだ。

 


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