六条御息所は、光君への嫉妬から、彼が愛した夕顔に生霊として取りついて殺している過去がある。
冒頭、「二年がたった」と時の経過が述べられ、退位した桐壺帝が、光君に対し、六条御息所をぞんざいに扱うべきではないと注意する場面があるが、光君は、夕顔にとりついた六条御息所の生霊を目撃しても、なお彼女との縁が切れなかったらしい。
(もっとも縁を切ったら、彼自身取り殺されるリスクはあったかもしれない)
光君より年上で、なおかつ身分も高い自分を正当に扱わない。
そんな恨みに、祭りの際に葵の上の使用人に恥をかかされた恨みが加わり、生霊になるのだが、光君と会話していたはずの葵の上が六条御息所の声になったり、六条御息所が、葵の上を乱暴に打ち据える夢を回想するところは若干怖い。
しかし、妻を呪い殺されながら、六条御息所との関係を断ち切ることもなく、自分が育てた紫の上と新たに夫婦になろうとする光君は、強化ガラスのような精神を持つ稀有な男なのかもしれない。
「賢木」は、光君の父であり、パトロンであった桐壺帝が死去したため、光君の最愛の女性と言っていい藤壺が出家してしまい、光君は二重の悲しみを感じるのだが、一方で、自分の政敵と言ってもいい弘徽殿女御の妹 尚侍の君(朧月夜 別名六の君 )と無理な逢瀬を重ね、その逢引の場を朧月夜の父である右大臣に発見されてしまうという話だ。
この右大臣に、尚侍の君と御簾の中にいた光君が発見されたときの描写がいい。
...すると、やけに色めかしい様子で、無遠慮に横になっている男がいる。今になってようやく顔を隠し、だれだかわからないようにしている....。
このふて寝をして申し訳程度に顔を覆う光君のずぶとさ。
若干憧れてしまう。
しかし、右大臣は、即位した朱雀帝の母でもある弘徽殿女御に、この一件を話し、彼女は光君を陥れる手立てを思案し始める。
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