2017年9月1日金曜日

三月の毛糸 川上未映子 近現代作家集 III/日本文学全集28

仙台で暮らす妊娠8か月の妻と夫。
実家の島根から帰る際、妻から京都に寄りたいと突然言い出す。

何かに不安といら立ちを抱えている妻との会話に、半ば疲れ、頻繁に睡魔に襲われる夫。

二人がホテルで寝ている時に、妻は、毛糸で生まれてくる子供の夢を見た話ををする。

「その世界では三月までもが毛糸でできあがっているのよ」

「いやなことがあったり、危険なことが起きたら一瞬でほどけて、ただの毛糸になってその時間をやりすごすのよ」

そして、妻は泣き出す。
「何かとんでもないことがわたしたちを待ち受けているんじゃないかしら」と。

おそらく、二人は三月に旅しているのだろう。
そして、妻の携帯には、友人から地震大丈夫かとのメールが来る。

この状況から考えると、おそらく、この話は、あの日のことで、まだ事実を知らない状態なのだろう。

ただ、上記のように、妻はすでにその予兆を感じている。
そして、夫も、「明日は大変な一日だよ」と妻に告げ、二人はふたたび深い眠りに落ちる。

何かを喪失する前の予兆を描いた作品。

二人は深い眠りから覚めて、あの事を知って、毛糸のようにやり過ごすことができたのだろうか。
そして、二人が仙台に帰る時はいつになったのだろうか。

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