まるで、立花隆の「知のソフトウェア」のような印象のタイトルの本を、池澤夏樹が書いていることへの好奇心から買ってみた。
冒頭、「自分に充分な知識がないことを自覚しないままに判断を下す」ような社会の大きな変化が目立ってきており、本書は、反・反知性主義の勧めであること、
その知の継承のため、今まで自分の仕事場を公開してこなかったが、規制を緩めて自分の「知のノウハウ」を公開すること、が述べられている。
以下の章立てで、作者のノウハウが述べられているが、印象に残ったところだけ、軽く取り上げてみる。
1 新聞の活用
その新聞が作った世界の図を、批判の姿勢で受け入れていく。「それはちょっと違うぞ」と思いながら、いわば対話しながら読んでいく。
2 本の探しかた
新聞広告、書評のほかに、各出版社が出しているPR詩を購読するのがよい(年間購読でも送料込みで1000円程度)
3 書店の使いかた
日本全国900軒の古本屋、古書店が参加している日本の古本屋が便利。
4 本の読みかた
古典を読むのは知的労力の投資だ。...しかし、たいていの場合、この投資は実を結ぶ。
5 モノとしての本の扱いかた
どんな本でもいずれ手放すと意識をして扱う。6Bくらいの太くて軟らかい鉛筆で、気になる箇所にマーキングする。消そうと思えば容易に消せるくらい。
6 本の手放しかた
ストックの読書とフローの読書。死ぬまで置いておく不変のストックである本と、読まれて次の読者のところへ流れてゆくフローの本。
7 時間管理法
ワードファイルで「月間管理表」を作る。過去の仕事の記録は全部残しておく。
8 取材の現場で
知らない所に行くときのガイドブックは「Lonely Planet」
9 非社交的人間のコミュニケーション
小説を書くために人に会って話を聞くことはほとんどない。専門知識はすべて書物とインターネットで集め、現場踏査を行う。
10 アイディアの整理と書く技術
最初に書いた原稿からの変更箇所が一目でわかるように修正を入れたゲラと同様のデータをつくっておく。
11 語学学習法
語学の習得にはなにより「分量」をこなすことがものをいう。そういう意味では「暇」は絶対的に大事。
12 デジタル時代のツールとガジェット
英語圏にあって日本にないのが「引用句辞典」。食事の席の話題にしたり、自分の文章をちょっと飾ったりするときに使う。(トイレに置いておくのに最適)
と並べてみたが、丸谷才一から毎日新聞の書評欄の顧問を任されたときの話や、林達夫とガイドブック「Lonely Planet」を交換した時の逸話、父の福永武彦と議論した限定本に関する考え方の違いなど、興味深いエピソードも読ませるものがある。
池澤夏樹が自分で作った書棚の写真が一部だけだが掲載されているところも興味深い。
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