池澤夏樹が個人編集した日本文学全集で、古典を新訳した作家たちが、古典作品の魅力と新訳の苦労(楽しみ)について語っている。
●古事記/池澤夏樹
古事記が戦前、軍国教育に利用されていた事実に触れながらも、日本人が大事にしてきたもの、一つは、恋愛、もう一つは、弱いものへの共感が、日本人の心性として、の作品に現れてることが語られています。
●日本霊異記・発心集/伊藤比呂美
ひたすら、日本霊異記で用いられているエロい言葉を説明していますが、出来上がった作品に節度が感じられたのは、伊藤さんが意外と根は真面目な人だからかもしれません。作品が呪術的な性格であると気づいて悩むところや、天皇の名前の取り扱いについて悩むあたりなんかは特に。
さんざん苦労した挙句、町田康の「宇治拾遺物語」に持っていかれたショックの念も語られていますが、確かに、この作品とは同じ本に収めてほしくはないですよね。
●竹取物語/森見登美彦
竹取物語は、シャレにこだわっているとか、内容にムラがあるとか、和歌の訳し方とか。
たぶん、この訳者たちのなかでは、一番真面目な内容だったと思う。
●宇治拾遺物語/町田康
「みんなで訳そう宇治拾遺」と題し、古典の訳し方のコツ説明しているだが、これが興味深い。
・コツ1 直訳
古語辞書を使って訳すと意味は分かる文章になるが、面白みがない。
・コツ2 説明(動作編)
原文のトピックとトピックの間に読み取れる(あるいは想像される)動作を説明する文章を入れて物語を埋めてゆく。
・コツ3 説明(会話編)
用件だけ伝えている会話に、つなぎの会話を足してゆく。これにより、話が分かりやすくなり、登場人物のキャラクターが明確になる。
読者が、学者ではなく詩人や小説家が訳す古典に期待するのは、まさに、コツ2やコツ3の“遊び”の部分である。そういう意味で、町田康の手法は、ある意味、理想的な訳し方なのかもしれない。
●百人一首/小池昌代
今回版に新訳した百人一首を紹介していた。
読んだ印象としては、今回版のほうが、はるかによかった。
たぶん、本人が遊びのつもりで訳しているからなんだろうが、言葉がずっと活き活きしている。
0 件のコメント:
コメントを投稿