2017年3月25日土曜日

十九歳の地図/中上健次

物語は、とてもシンプルだ。

新聞配達をしている予備校生のぼくが、彼が新聞を配達している近所の人たちの地図を作っている。

彼が気に入らなかった住民の家には×が付けられ(〇はない)、時には、電話帳で調べた電話番号に、脅迫めいたいたずら電話をかける。
 (今、個人の電話番号が載っている電話帳というものがあるのだろうか?)

まともに勉強をする気はほとんどなく、三十過ぎの紺野という男と同居している日当たりの悪い部屋で、日がな、日本史の教科書や漫画、推理小説を読んでいる。

彼がかけるいたずら電話は、ある意味、常軌を逸している。

ラーメン屋でない普通の家にタンメンを注文したり、いきなり馬鹿野郎呼ばわりをしたり、東京駅には、爆破予告をする。
そして、紺野がつき合っている“かさぶただらけの淫売のマリアさま”には、紺野の裏切りを話し、死ねばいいと告げる。

それでも、からっぽの体で涙を流すぼくを全否定できないのは、自分にも多少なりとも似たり寄ったりの時代があったからかもしれない。

まだ、電話ボックスの電話機に10円玉を入れ、ダイヤルを回していた時代。

私は、亡き父の若い頃の姿を思い浮かべながら読んだ。
彼もそんな時期を過ごしていたのだろうかと。

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