片岡義男という人は、私にとっては、ずっと謎の存在だった。
1980年代、角川文庫の棚一列を埋めつくしていた彼の作品。
数多くの映画化された作品。
たぶん、一度はページを開いたことはあると思う。
でも、読まなかった。
おそらくだけれど、自分の好みの文章ではないものを感じたからなのだと思う。
彼の作品は、生存している小説家としてはめずらしく、青空文庫で読める。
そして、短編「私とキャッチ・ボールをしてください」を読んで、やはり、彼の小説を、数冊読むことはないと感じる。
その昔(1988年)、NHKのドラマで、「ハートブレイクなんてへっちゃら」という単発のドラマが放映された。
気障な作家が女性にからむ4話のショートオムニバスみたいな作品なのだが、1話(バイクに乗った女の子をお月見にナンパする話)と4話(酔っぱらった洞口依子さんと、なんかグダグダになる話)だけ、おぼろげに記憶に残っている。
唯一、触れた彼の作品(原作)だったが、不思議と原作を読もうという気にならなかった。
そうして、時間が経ち、ここ十年ばかり、本屋で並ぶ新刊で、よく彼の本が目に留まるようになった。
文房具の本や、ペーパーブックの表紙の本や、英語や翻訳についての本。
手にとって読むうちに、不思議な印象を覚えた。
まるで、翻訳文みたいな、若干ぎこちない日本語。
でも、小説よりいい。というか、テーマに不思議となじんでいる。
そう、思いながらも、やはり、これらの本も本格的に読まないで素通りしてきた。
ここまで縁がないなら、そのまま行けばいいのだが、最近、「文房具を買いに」を、まともに読んでいる。
村上春樹の9つ上の1940年生まれ。
原爆投下のキノコ雲も目撃している。
同期は何と、唐十郎、志茂田景樹、ル・クレジオ、立花隆、C・W・ニコル、池内紀。
そして、不思議な気持ちになる。この人は、日本の文学界において何者なんだろうと。
「文房具を買いに」の感想を書きたかったのだが、片岡義男という存在が、私の中では予想以上に膨らんでいて、まず、これを吐き出す作業が必要だった。
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