この本を読んだのは、勿論、猫物語(白)の原作者が西尾維新だからである。
この歳でライトノベル?と、いつも、書店の一角を占める西尾維新のコーナーを遠巻きに見ながら、近寄るまいと心に誓いながらも、正反対に、Tokyo mx テレビの『傾物語』、『恋物語』をついつい見てしまう自分。
『傾物語』はあまり興味が引かれず、やはり『猫物語(白)』が特別だったのかという気持ちに一時期、落ち着いたが、戦場ヶ原ひたぎと貝木泥舟の奇妙な関係を描いた『恋物語』を見てからというものの、やはり、その独特の世界観に惹かれてしまった。
ということで、これは一度、原作者の本を読んでみようと思い立ち、見ているアニメ「物語シリーズ」とはまったく関係がない小説を図書館で借りたのがこの本だった。
まず、ぱらぱらと開いて安堵したのは、読み手をひきつける表現は別として、わりとしっかりした文章が書かれているということだった。
赤川次郎みたいな文章だったら、たぶん読む気をなくしていたと思う。
ストーリーは、こんな感じ。
主人公の窓居証子(まどいしょうこ)という就職活動に失敗した女の子が、生活難から住むところもなくし、金持ちの作家の叔父 窓居京樹(きょうき)の家に、秘書兼雑用係みたいな役割で居候することになる。
この叔父の京樹は携帯電話を持つが(自分では電話・メールを受けない)、ネット社会には無縁の変わり者で、豪勢な武家屋敷に住み、狭い茶室を仕事場にして、リラックスするという理由からDVDを見ながら作品を書いている。また、お金にも鷹揚で、証子に月30万円の手当てをあげようとしたり、キャッシングをすると、自動的に寄付する仕組みのクレジットカードを使っている。
その叔父の携帯電話の電話番をしている証子は、ある日、京都府警からの電話を取り次ぐことになる。用件は、叔父の友人である根深陽義(ねぶかようぎ)という人物の身柄引取り。
この根深陽義は、五年前に警察を退職した優秀な警視だったが、今はネットカフェ難民でその日暮らしの探偵をしているという、やはり変わり者。
そして、彼が警察に保護されたのは、ある殺人事件を通報したからなのだが、根深が巻き込まれてしまったこの事件に、証子も巻き込まれてしまい、事件の解明に迫っていくというミステリ仕立てになっている。
一気に読むことはできたが、感想はというと、まあまあというところだろうか。
たぶん、西尾維新という作家でなければ、途中で読む気をなくしたかもしれない。
不満な点を挙げると、人物の描き方が平板だということ。
証子も、京樹も、陽義も個性的なキャラクターなのだが、あのアニメと違って今ひとつビジュアルに迫ってこない。個性的なくせに意外に言っていることがマトモすぎるということもあるかもしれない。そのせいか、物語の最後まで感情移入しずらかった。
それと、ミステリの重要なポイントである事件の真相が地味でオーソドックスなものだったということと、これまたミステリ特有の男女関係的なものが一切排除されているということだ。
証子は出会う男たちに対して、女性としての感想を述べない(オジサンが多いからかもしれないが)。彼女は、ちょうど会社に来たインターンのように社会見学的な感想を述べるのだが、これも意外に言っていることがマトモすぎる。
また、証子に出会う男たちも、証子に対して女性的な魅力を求めない。そのせいか、読者も証子に対して魅力をそれ程感じないことになってしまう、ということではないだろうか。
改めて思ったのが、今、アニメで見ている「物語シリーズ」の魅力である。
アニメ(映像)の力は、やはり大きかったのかもしれない。
インターネットで調べると、アニメの監督の新房 昭之氏は、市川崑監督の影響を受けているようなことが書かれていたが、私などは、『猫物語(白)』と『恋物語』には、鈴木清順監督の作品やリドリー・スコット監督の「ブレード・ランナー」の美意識を随所に感じていた。
この美意識と、オタクっぽい美少女キャラが、どことなく、しかめつらしい意外にマトモなことを言うモノトーンの西尾維新の物語に化学反応した結果の魅力なのかもしれない。
もっとも、私がたまたま選んだ「難民探偵」が、西尾維新の作品のなかで、それ程の出来ではなかったのかもしれないが。
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