2013年4月6日土曜日

真幻魔大戦16~18/平井和正

真幻魔大戦16「犬の帝国」、17「幻魔書」、18「黄金の獣神」により、真幻魔大戦の物語も未完のまま終わることとなる。

「犬の帝国」は、犬の獣人の軍隊に、ソル王女、クロノス、ドナーが洞窟基地に収監され、クロノスは高圧の水流で虐待を受け、ドナーは連れていたウサギ少女ラチルを奪われ、一方的な軍事裁判を受けた後、クロノスが暗黒儀式の生贄として獣姦され死んでしまう(幽体離脱)という過酷な内容になっている。

「幻魔書」では、ソル王女が、暗黒儀式の主宰者である犬人族の高級将官、高級僧侶と対決し、彼らが霊物として持っていた「幻魔書」から、幻魔の地球司政官である堕天使ルキフェル(サタン)を呼び出し、対話することになるが、ルキフェルの意外な姿が明らかになる。
そして、クロノスもルキフェルと対話することで甦るが、「神罰杖」を使って獣人たちに復讐することで、意識を失ってしまう。ソル王女は、非常警報が鳴る洞窟基地の中、クロノスを連れて外に出ようとする。

「黄金の獣神」では、牢獄に囚われていたドナーが、ドナーを利用しようと考えている狐面の犬人キールと、テリヤの顔面をした犬人ダズンを伴い、人が変わったように暴力的な戦士と化し、犬の兵隊に連れ去られたウサギ少女ラチルを探すが、人食いの兵隊ゼンダイに虐殺され食べられてしまったことを知る。
怒りのあまり、精神に失調を来たし、意識を失ったドナーと別に捕らえられたクロノス(ソル王女の行方は不明)は、獣人の高級将官メルダイに八つ裂きの刑に処せられそうになるが、謎の黄金の獣神の出現により、メルダイは殺され、犬の獣人の艦隊と獣神の対決の場面で物語は終わる。

犬の獣人たちが支配する世界は一見異質な感じはするが、彼らの言動は明らかに動物ではなく人間の性質を現しており、その残虐さを戯画化したような雰囲気を全体に感じる。

ラチルの残虐な殺し方、クロノスを犯す獣人の姿は、人間の戦争に付きものの兵隊たちの姿なのだ。
この残虐な世界で、人が変わっていくクロノスとドナーに比べ、ソル王女はまったく当初の自分を失わない。そのソル王女が倦怠に沈む堕天使ルキフェルから彼自身を癒すことを期待されるという場面は、「ハルマゲドン」で見た助けを呼ぶ高鳥の前に現れた井沢郁江の姿にも重なるし、堕天使ルキフェルが実は”東丈”だったら、幻魔大戦全体における丈と郁江の関係につながるようにも解釈出る。

大体、このパートの始まりは、失踪した”東丈”を探し、連れ戻そうとした杉村優里が、日本の飛鳥時代では役の小角を、杉村優里がクロノスになってからは、ギリシア時代ではアポロを、ムー大陸の超古代世界とつながった超空間では赤ちゃんの東丈を見つけていたのだ。
だとすると、この幻魔世界に近い獣人の世界にいた東丈は誰だったのだろう。
最後に出てきた謎の黄金の獣神なのか、ルキフェルなのか。
ソル王女はどうなってしまったのか。などなど
いずれにせよ、物語を現代から超古代へどんどん広げて、魅力的な登場人物を残したまま、真幻魔大戦の物語は終わってしまった。

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