2011年11月27日日曜日

大人のための残酷物語/倉橋由美子

余計な心理描写のない感傷を排した小説は何かと問われたら、ハードボイルド小説と答えてしまいそうだが、倉橋由美子が書いた大人のための童話に比較したら、まだ甘ったるいカクテルのようなものかもしれない。

「大人のための残酷物語」は、アンデルセン童話、グリム童話、日本昔話など、有名な童話や昔話から題材を得て、作者曰く、「論理的で残酷な超現実の世界を必要にして十分な骨と筋肉だけの文章で書いてみよう」という試みから生まれたものです。

因果応報、勧善懲悪、自業自得の原理が支配する世界。

読んでいて残酷な話が多いが、なまじ中途半端な同情心やヒューマニズムより、残酷な真実を示されたほうが、精神衛生的には良いのかもしれません。

また、全体に共通しているのは、「大人のための」というだけあってエロチックな描写が多いことと、物語の最後に短い教訓がつけられていることだ。

思わず笑ってしまいそうな結末も、「教訓」を読むと素直に笑えない、かなり毒性が強い物語もある。そういう意味でも、「大人のための」といってもいいかもしれない。

作品の中には、谷崎潤一郎の「春琴抄」、中島敦の「名人伝」、カフカの「変身」も題材として取り上げられており、強烈なアレンジがほどこさているので、興味のある方は、原作と読み比べてみるのも面白いかもしれません。

2011年11月25日金曜日

SOLARIS / Stanislaw Lem

スタニスワフ・レムの「SOLARIS」は、SFといっても、だいぶ趣が違う作品だ。

赤と青の二つの太陽をまわりを回っている惑星ソラリス。

地球よりも直径が二割ほど大きいが、陸地はヨーロッパ大陸よりも面積が小さく、広大な海を持つ。酸素はなく、生命はないと思われていたが、その広大な海が、知性を持っているのではないかと思われる様々な現象が起こる。

その惑星ソラリスを観測するため、ソラリスの海の海面500mの中空にある観測ステーション。
ここが小説の舞台だ。

主人公は、心理学を専門とする実直な性格の科学者ケルビン。彼はその宇宙ステーションにすでに滞在している他の科学者二人と、人類以外の知性 ソラリスの海 と接触することになる。

しかも、その接触は、主人公が以前付き合っていて自殺してしまった恋人との再会(といっていいのか)という思いがけない形で行われる。

ソラリスの海が、ステーションにいる人間が寝ている間に、その意識に深く入り込み、その人が心の奥底で思っている記憶を実物どおりに複製してしまうのだ。

ソラリスの海が、何故そんなことをするのか、人類に対して何を伝えたいのかは一切わからないまま。

主人公は、科学者としての理性を持ちながらも、再び現れた恋人に深く思い悩まされることになるのだが、その過程は、恋愛小説のようでもあり、人間の尊厳という哲学的・道徳的な側面まで触れられている。

50年前の1961年に発表された作品だがその魅力は色褪せていない。

以下、余談です。

☆アンドレイ・タルコフスキー監督の映画「惑星ソラリス」は、この原作をベースに、タルコフスキー独特の美しい映像で表現していて、また、別個の作品に仕上がっているような気がします。

★2002年にもジェームズ・キャメロン製作の映画「ソラリス」がありますが、こっちは、ちょっと恋愛的な部分にフォーカスを当て過ぎていて、原作の持つ深みが感じられなかった作品でした。


2011年11月23日水曜日

書行無常/藤原新也

藤原新也の書行無常展を見てきました。

銀座線 末広町を降りて、ちょっと裏通りを歩くと、3331 Arts Chiyoda という学校のような建物が会場だった。

建物に入ると、会場受付前には、右手にカフェ、左手に子供のおもちゃのバザーが行われているという何とも不思議な空間だった。

受付で、チケットを買おうとしたら、受付のテーブルで、藤原新也本人が「書行無常」の本に、ひたすらサインを書き込んでいた。

考えれば、初めて本人を見たのだ。
私のイメージよりも小柄な方で、一見すると優しそうな普通の初老のおじさんだった。

いきなり、本人を見て舞い上がってしまったせいで、展示物を逆の流れから見てしまった。

展示物は、1.中国、2.日本、3.印度、4.三陸円顔行脚、5.死ぬな生きろ、6.福島桜の順だったのだが、いきなり、6.から見てしまった。

展示物は、書籍「書行無常」に掲載されている書と写真でしたが、
大書された言葉と大きく引き伸ばされた写真を間近にみると、やはりパワーをもらったような気がします。

以下、印象に残ったもの。

6.は原発事故後の福島三春町の満開の桜。

5.青木ヶ原樹海に立てられた「死ぬな生きろ」と書かれた108つの卒塔婆と、大きく引き伸ばされた赤ちゃんのアップの写真。
(渋谷109の大型ビジョンに「死ぬな生きろ」を表示するあたりは、藤原さんは、やはりパフォーマーだなと感じるコーナーでした。)

4.見ていてこちらも微笑んでしまうような子供たちの円顔の絵。

3.「苦楽苦楽苦楽」の書がガンジス川に流れていく。

2.人間書道 晶エリーの髪で書かれた「男」、乾き亭げそ太郎の「断捨離」
  (振り返ると、このコーナーが一番好きでした)

1.上海万博 中国館前の「万世(バブル)一夜の夢の如し」
  会場展示の書は、何故か、バブルの振り仮名は黒い点に変わっていました。
  中国の雄大な風景に負けない藤原新也の「書」がすばらしい。

都合がつかなかったため、瀬戸内寂聴さんとのトークショーが見られなかったのは残念。

展示会は、今週日曜日までの開催です。