これは、彼の作品の中では、喜劇の部類に属する小説かもしれない。
イタリア北部の要衝M市に、未亡人であるが盛名をうたわれる貴婦人 O侯爵夫人がいたが、戦争が起きて、ロシア軍に攻め込まれる。
その際、O侯爵夫人は、ロシア軍の狙撃兵たちに暴行されそうになるが、一人のロシアの将校 F伯爵が彼女を救う。
F伯爵は、彼女を助けた後、瀕死の重傷を負うが、命を取り留めると、忙しい軍務のさなか、O侯爵夫人の家を再訪し、彼女にプロポーズを申し込む。
突然のF伯爵の申し出に夫人とその父母も違和感を覚えるが、F伯爵の思いをひとまず了承し、彼は再び戦場に戻る。
しかし、O侯爵夫人の身体には異変が起き、妊娠していることが分かる。それを知った父親からは激怒され、夫人は家を追い出されてしまう。彼女は、新聞に、生まれてくるこの父親に対して名乗り出てきてほしいという広告を出す。そして、その新聞広告を見て現れた男は…という物語だ。
読んでいる途中から、だいたい分かってしまったせいもあるし、パロディのような小説なので、クライストにしては、切迫感のない冗長な展開だと感じる作品であった。
しかし、O侯爵夫人と彼女の父親が和解する場面での異様なキスシーンや、現れた男に対するO侯爵夫人の激情など、クライストらしい要素は垣間見える。
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