2020年5月5日火曜日

青青の時代/山岸凉子

山岸凉子が描いた卑弥呼(ヒミコ)の物語。
彼女の作品なのに、珍しく途中で読むのを止めてしまったが、十数年ぶりに読み直してみて、なぜ読むのを止めてしまったのか、想像がついた。

たぶん自分は「日出処の天子」のような作品を期待して、この作品を読んだのだと思う。

シャーマン的な能力を持ち、国を支配した謎の女王。
「日出処の天子」の厩戸王子にぴったりのイメージではないか。

しかし、山岸凉子は「日出処の天子」とは、まるで違う作品を作った。

まず、この作品の主人公は壱与(イヨ)という、山岸凉子らしくない少女漫画風の目が大きい二重の少女なのだ。
彼女はヒミコの姉であった日女(ヒルメ)の孫娘である。

ヒルメは、ヒミコより強い超常能力の能力を有していたが、ヒミコの策略により、強姦され、妊娠してしまい、聞こえさまとしての地位を失ってしまう。なお、ヒルメは気狂いの老婆として描かれている。

イヨも、ヒルメの強い超常能力を受け継ぎ、その力はヒミコを凌駕しているが、積極的にその能力を行使しようという野心はない優しい少女で、物語の冒頭、島の少年たちに輪姦されて、処女を喪失してしまっている。

物語は、伊都国の王 日男(ヒルオ)の死を契機に起こる王位継承の争いが起こり、ヒミコが推す第一王子の日子(ヒルス)に対抗すべく、第四王子の狗智日子(クチヒコ。これも三白眼)が、ヒルメとイヨを伊都国に連れてきて、イヨが争いに巻き込まれるというもの。

唯一、ヒミコが老女でありながら、美貌を失わず、厩戸王子のイメージに近いが、彼女には厩戸が持つほどの強い超常能力はなく、動物の骨を焼いて吉兆を占うことにとどまる。

また、「日出処の天子」のような登場人物間の恋愛模様はなく、むしろ、ヒミコに象徴されるシャーマン(巫女)に支配される女の政治から、権謀詐術を繰り出すクチヒコのような男の政治に取って代わられる現実的な政治への移行の過程を描いている点で、本当にこれは少女漫画なのかという別の意味での驚きを感じた。

「日出処の天子」から十五年経ち、成長した創作者として「同じ作品は描かない」という作者の強い意思を感じる。






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