2018年2月24日土曜日

ゲド戦記V ドラゴンフライ アースシーの五つの物語 その2/アーシュラ・K・ル=グヴィン

「湿原で」は、小高い平原の荒涼たる湿原に牛飼いとして暮らす後家のメグミが、突然現れた謎の治療師(牛や羊の伝染病を治す)の男を自分の家に迎え入れ、彼を色々と助けてあげる物語だ。

実は治療師は、ロークの魔法学院で、ゲドと呼び出しの長トリオンと互角に戦えるほど強力な魔法を使える男イリオスで、二人との戦いに敗れ、逃亡したのだった。

そして、イリオスを追ってきたゲドは、彼をみつけ連れ戻そうとするが、メグミがイリオスは村に必要だと話し、ゲドは立ち去る。
ここでも、魔法使いイリオスの人生を救ったのは、女性の力だ。

「ドラゴンフライ」は、4作目の「帰還」以降の話が書かれていて、アイリアの領主の娘 ドラゴンフライが、女好きが原因でロークの魔法学院を追い出されたゾウゲにそそのかされ、女人規制のロークの魔法学院を訪ねるという物語だ。

大賢人ゲドがいなくなったロークの魔法学院は、ドラゴンフライを排除しようとする呼び出しの長トリオンに代表される硬直的で閉鎖的な存在に変わり果てており、結果的にはドラゴンフライがその澱みを断ち切ることになる。

興味深いのは、うっすらとではあるが、ドラゴンフライが性欲について語るところで、これも過去三部作の禁欲的な世界観とは全く異なるものだ。

「アースシー解説」は、アースシーの世界を構成するファクターを教科書的、歴史的に解説している掌編だが、この中に収められている「禁欲と魔法」でも、女性を排除してきたロークの魔法学院を迷信まがいの行為と非難し、男女が交渉を持つのは自然なことであると述べている。

これらの作品には、ゲドを中心とする男性的な世界が旧世界として扱われ、テナー、テルー、ドラゴンフライに象徴される強い女性が新世界を作っていくという作者の意図が鮮明に現れている。

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