2018年2月11日日曜日

犬物語/ジャック・ロンドン(柴田元幸翻訳叢書)

この本に描かれている犬は、人間の愛玩動物としての犬ではなく、どちらかというと狼に近い、知恵も勇気も忍耐も兼ね備えた、リスペクトすべきパートナーとしての犬である。

ジャック・ロンドンが、これらの犬が登場する小説を発表していた1900年代初頭においては、まだ、犬が極寒の中を犬橇をひいて郵便物を運ぶ役割を果たしていたことがうかがえる。

「ブラウン・ウルフ」
ある夫婦が偶然見つけてペットとしてなつかせようとしていた犬が、過去にその犬を所有していたという男と出会い、その犬が過酷な環境で犬橇を引いていたという事実が分かる。両者が犬の所有を主張して譲らぬ中、男は夫婦に対して、犬に飼い主を選択させることを提案し、自分は立ち去り始める。犬が選んだのは...

「バタール」
犬に対して残忍な仕打ちをする主人と、その仕打ちに耐えながら、主人に対する憎悪を膨らませ、いつか復讐することを心に誓っている犬の関係。
憎しみも愛以上の関係に発展し、生きがいになってしまうことがあるのだろうか。

「あのスポット」
売っても、捨てても、窮地に置き去りにしても、自分のところに舞い戻ってくる犬。
これは、ちょっとした悪夢かもしれない。

「野生の叫び声」
判事の家で、何不自由なく暮らしていたバックは、突然、金に困った使用人に売り飛ばされ、犬橇を引く環境に身を落とす。
厳しい環境の中、バックは、飼い主の棍棒、犬橇を率いるリーダー、先輩、同僚の犬から多くの事を学び、やがて、リーダー格の橇犬としてたくましく成長する。
次々と変わっていく飼い主だったが、相思相愛の飼い主についに巡り合い、幸せな時間を過ごす。しかし、森への侵入を繰り返すうちに、やがて、眠っていた野生の血がバックのなかでよみがえっていく。

「火を熾す」1902年版
極寒の中、水につかってしまった男が、凍傷を防ぐため、火を熾そうと奮闘する話。
ちょっとした作業ミスが死につながるという過酷な世界。
この作品には犬は出てこないが、1907年版の犬が出る物語の方が深みがあると思う。

犬好きには、お勧めの一冊である。


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