2015年8月16日日曜日

安倍首相の戦後70年談話全文を読んで

安倍首相が、閣議決定を経て、戦後70年談話を発表した。

戦後50年の村山談話、60年の小泉談話が1200字程度だったのに対して、3000字以上(A4用紙5枚)に及んだというのは、いかに、安倍政権が、この談話を注視する関係者への配慮を盛り込むか、苦心した表れともいえる。

その結果、一読すると、いわゆる安倍首相的な考えと、それに相反するような考えが所々に見られる不思議な談話になったというのが、私の印象だ。

まず、安倍首相的なものを取り上げてみる。

1. 日露戦争の肯定
 この談話のはじまりで、日露戦争を肯定するような表現で取り上げている。
司馬遼太郎が日露戦争を「祖国防衛戦争」だったと評していることを私自身も否定するものではないが、安倍首相が語っているこの文脈では、日露戦争のような戦争であれば肯定されるのだ、という思いが伝わってくる。

しかし、この日露戦争の勝利が、日本人をして、日本国が絶対負けない神の国であり、世界において一等国という妄想を軍部および多くの国民に植え付け、戦後得た満州の権益を守るため、国全体が植民地支配と侵略戦争に乗り出し、太平洋戦争に突き進んだことを考えれば、その罪深さが分かるだろう。

2.太平洋戦争の原因は、世界恐慌と欧米諸国の経済ブロック化
私は、日本の軍国化に経済の困窮が影響したことを否定するつもりはないが、この2つの要素だけ取り上げることについては違和感がある。
太平洋戦争の原因は、何といっても、 日本の軍部が、日露戦争の勝利によって得た満州の権益を守ること、ソ連の侵攻を防ぐことを重視し、憲法の不備を突いて、暴走していったこと、そして、それを盛んに焚き付けたマスコミの影響が大きいと思う。

この「経済のブロック化」は、談話の最後の方でも述べられていて、「国際経済システムを発展」(おそらくTPPだろう)にかかってくる。中国への牽制という意味合いもあると思う。

3.アジア諸国への侵略、植民地化について、誰がどこで何をしたかは説明を省略
日露戦争時まで遡っておきながら、日本が西洋列強の真似をして、植民地支配と侵略戦争に乗り出したところは、実にさらっと流している。「事変、侵略、戦争」という単語だけを並べて済ましているところも、違和感がある。文脈から読むと、日本のことを指しているのは分かるのだが、単に一般論として、これらの行為は許されないとも解釈できてしまう。

なぜ、こんな曖昧な文章に終始したのか。それは、つまり、はっきりと言いたくなかったのではないか、とも推測できてしまう。

 4.「痛切な反省と心からのお詫び」から、「歴代内閣の立場は揺るぎない」までの距離
 「痛切な反省と心からのお詫び」が過去形の中で表明されたこともそうだが、「こうした歴代内閣の立場」の「こうした」には、「反省とお詫び」というより、「戦後一貫して(日本が)、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました」という文章を指しているような気がする。
安倍政権が今後考える「平和と繁栄のために力を尽くす」ことには、もちろん、今、国会で審議している安保法制も入るのだろう。
談話の最後の方の「積極的平和主義」が、その意図をさらに強調している。

いずれにしても、安倍首相としては、「もう、謝罪は止める」という意図が透けて見える。

5.中国と韓国は、寛容の心を持て。未来永劫、謝罪を続けるのは御免だ
談話では、日本が国際社会に復帰できたのは、戦争被害者に寛容の心があったからだと訴え、ついで、「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と断言している。
この言葉は加害者から言うべきものではないだろう。加害者から、もう私は謝罪しないという一方的な宣言は、被害者に対しては全く通用しない身勝手な言い草に過ぎないと思う。

たとえ、「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたち」であっても、被害者が許さない限り、謝罪せざるを得ないというのが、歴史上の責任(無限責任)ということなのだと思う。

以上、安倍首相の考えが現れている部分を取り上げてみたが、従来の談話には見られない点(慰安婦を思わせる表現、女性の人権)に触れているところは、評価できると思う。

しかし、談話の文中にある以下のような考えを本当に持っている首相であれば、憲法も改正せずに、今の安保法案を強行採決することなど考えられないと思うのは、私だけだろうか。
「いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。」

「先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。自由で民主的な国を創り上げ、法の支配を重んじ、ひたすら不戦の誓いを堅持してまいりまし た。七十年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たちは、静かな誇りを抱きながら、この不動の方針を、これからも貫いてまいります。」

「我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し」

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