読んだ瞬間、あぁ、これは、タブッキの世界だ、と思った。
そう分かってしまうほど、この作品には、「インド夜想曲」、「レクイエム」、「遠い水平線」と重なるような静かで幻想的な世界が溢れている。
主人公のタデウシュが、謎の女性イザベルを探して、さまざまな場所を訪れ、個性的な人々と出会い、対話を重ねるという構成も、なじみのものだ。
しかし、作品に陳腐感はなく、相変わらず、ページをめくるごとに心が癒されてゆくような思いがする。
それは自分の知らない旅先で、素敵な人と出会い、思いがけず、その人の人生を垣間見るような感覚に似ているのかもしれない。
一瞬だけれど、深く交わり、心を残しつつ、別れがやって来る。
その一期一会的な人と人との距離感と、旅するようなスピード感が、今の私にとっては、とても心地よいのかもしれない。
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