2015年4月12日日曜日

神社合祀に関する意見 南方熊楠/日本文学全集 14

南方熊楠については、水木しげるの漫画「快傑くまくす」で、その破天荒な人物像は知っていた。

奇行が多い反面、二本足の百科事典と言われる程の頭脳を持ち、青年時代は米英で学び、二十か国に近い言語を操り、中国革命の父と言われる孫文とも交友があった。

帰国後は、粘菌の研究にいそしみ、昭和天皇に対して粘菌をキャラメルの箱に収め献上し、後に「雨にけぶる 神島を見て 紀伊の国の 生みし南方熊楠を思ふ」という、昭和天皇が最初に詠んだ民間人が熊楠だったという逸話も残っている。

本書の題名にある「神社合祀」とは、明治末期の勅令で行われた神社の合併政策のことで、これによって、全国で約20万社あった神社のうち、7万社が取り壊された。

何故、そんなことをしたかというと、国家が管理できるレベルまで神社の数を減らし、公費を一定数の神社に集中させることにより、神社の威厳を保たせ、継続的な経営を確立させることだったらしい。

南方熊楠は、廃社に伴い土着の信仰や習俗が破壊され、神林(神社の森)が伐採され、生態系が破壊されてしまうことを察知し、神社合祀に対する反対運動を起こした。

「神社合祀に関する意見」という長文の手紙は、神社合祀がいかに社会と民衆に害悪をもたらすかということを、古今東西の思想家の箴言を引用し、その愚かさを諭す一方で、社会科学、自然科学の観点から、神社とその自然環境が与えてきた人々の暮らしへの恩恵と合理的な関係性について具体的に説明しているところがすごい。(まだ、環境問題という概念がない時代である)

実際には、熊野(和歌山県・三重県)の神社のおよそ9割が廃却され、その神林も伐採されしまったらしいが、彼の反対運動のおかげで、今日、かろうじて熊野古道が世界遺産として登録できたのかもしれない

熊楠は、故郷の田辺での演説で、やがて、この景色や空気で儲ける時代が来るだろうと予言していた。粘菌という小宇宙の世界を研究していた彼には、精緻に組み立てられていた自然と社会のシステムが見えていたのだろう。

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