お葬式でドラマが起きるという流れは、前作の海街でもそうだったが、詩歌川の物語でも、やはり起こる。
幼い和樹と義弟の守を育ててくれた飯田の叔母が亡くなり、葬式に訪れる人々に接し、和樹は自分と守が、こんなにも多くの人たちに支えられていたということに気づく。
一方で、だらしない実母に引き取られ、性格がすさんでしまった義弟 智樹が和樹の前に現れ、自分の義姉(鈴)と守を傷つけようとする言動に激昂した和樹は智樹を殴ろうとしてしまう。
その自分の行為に深く傷ついた和樹を、妙はやさしく抱きしめる。
この物語で二人がもっとも近づいた場面だと思う。
しかし、この物語で、妙は、何度、”ことば”にしなくてもよいと思うような場面で、明確に”ことば”にして、和樹と守を癒し、肯定し、救ってきたのだろう。
これは、もう一人の精神的メンターである林田(リンダ)が言うようにPieta(慈悲)としか、言いようがないけれど、妙にとっては、和樹が大事な存在であることがよく分かる場面だ。
妙が守に語った11才の時に「河童淵」で見た河童とは、和樹のことなんだと思う。
妙が死のうとして飛び込んだ「淵参り」で、自分を救ってくれた和樹。
それは、妙にとっては恋だったのか、Pietaだったのか。
個人的には前者だと思う。ひょっとしたら妙自身も気づいていない。