この「 シャーロック・ホームズの冒険」は、もっとも多くの日本人が読んだイギリス文学かもしれない。十二作の短編小説が収められ、前二作「緋色の習作」「四つのサイン」で感じられた物語後半のまどろっこしさが解消され、すっきりとした仕上がりになっている。
「ボヘミアの醜聞」は、ボヘミア国王から、彼が皇太子の頃、付き合っていた舞台女優アイリーン・アドラーが、二人が共に写っている写真を持っており、近々、国王が他国の王女と結婚することとなるので、女に対して写真の買い取りを提案したがこれに応じず、女の家に盗みに入っても見当たらないので、ホームズに何とかして写真を取り戻してほしいという事件の依頼内容。
ホームズはワトスンの協力を得て巧みな策略で写真の在りかを探ろうとするが、アイリーン・アドラーが一筋縄ではいかない女性であることが分かる...という物語だ。
ホームズがアイリーンへの敬意を抱きながらも、恋愛感情を持たないという線の引き方の厳しさは、コナン・ドイル個人の考えが反映されているような気がする。
半面、ホームズのワトスンへの友情の描き方は手厚い。
久々に訪れた友人に、優しい目つきで、ひじかけ椅子をすすめ、葉巻の箱を投げ渡し、酒が置いてある台や、ガソジーン(炭酸水製造機)を指さすあたりは、男友達のなにげない友情が描かれていて、その温かさが印象に残る。
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