2023年12月16日土曜日

四つのサイン/シャーロック・ホームズ全集2 アーサー・コナン・ドイル/小林司・東山あかね 訳

この小説も初めて読んだものだと思う。
シャーロック・ホームズの作品は、どうしても「少年もの」のイメージが付きまとうが、この物語では、冒頭、皮下注射器でコカインを打つホームズの姿が描かれている。

「ぼくは、ぼんやりと生きていくことに耐えられない。精神の高揚が必要なのだ。」

と語るホームズには、正義感という理念は持たず、自身の昂奮を求めるドラック愛用者だし、アマチュア・ボクサーとして試合に出て与太者をノックアウトした事実も描かれており、独身男のリアルなホームズの姿が浮かんでくる。

少し退廃的なのは、作者が吸収していた十九世紀末のロンドンの雰囲気が意図せずに作品に漂っているからだろう。

しかし、この物語、四つのサインをした人が誰なのかを理解するのが意外とむずかしいのと、犯罪の原因となった舞台が、セポイの乱(1857-1858年、日本は幕末)の頃のインドを舞台にしていて、犯人も義足とか、小人、毒矢と特殊なキャラクターでなかなか頭になじまなかった。

一番印象に残ったのは、相談者メアリと結婚の約束をしたことを報告するワトソンに、ホームズが「すごく憂うつそうなうめき声をだした」シーンだろうか。

ホームズの、気が合うワトソンを女性に盗られることへのうらみ、結婚という凡庸な生活に後退していくワトソンへの幻滅が感じられて面白かった。


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