全く知らなかった漫画家の作品集だったのだが、その作品の一つ一つに魅了された。
楠勝平は、1944年、東京に生まれ、中学生の頃から心臓弁膜症を患い、「カムイ伝」の白土三平のアシスタントの傍ら、江戸時代を中心とした市井の人々の生活ををこつこつと描いていたが、病が悪化し、三十歳の若さで亡くなっている。
しかし、五十年近く経った今でも、その作品の魅力は失われていない、というより、この時代になったからこそ、その真価が見え始めたのかもしれない。
楠勝平の作品から浮かび上がる、貧困、女性の自立、病、人の弱さ、やさしさ、家族、死というキーワード。
山岸凉子があとがきで、楠作品は「メジャーで普遍的な世界を描いている」と言っているが、その指摘は正しいと思う。
それと、絵が温かい。
「おせん」が花瓶を割ってしまい、それを男のせいにしても、彼女がちっとも悪者にみえず、同情したくなってしまうのは、彼女が朝早くから晩まで家族を養うために必死に働いている姿をリアルに描き切っているからだと思う。
「おせん」が花瓶を割ってしまい、それを男のせいにしても、彼女がちっとも悪者にみえず、同情したくなってしまうのは、彼女が朝早くから晩まで家族を養うために必死に働いている姿をリアルに描き切っているからだと思う。
「やすべえ」も、浮浪少年が、明日の食べるための鮒もつれず、誤って川に落ち、ずぶ濡れで雨の中を歩いているときに、見かねた婦人が自分のさしていた傘を渡す場面がある。そして、やすべえが傘を差しながら空っぽのはずの魚籠をみると、小さなメダカが入っていたという何気ないシーンが続くのだが、不思議と温かな気持ちが読後に残る。
「彩雪に舞う…」は、病に苦しみ、死にいく少年が主人公なのだが、彼が病床から見える庭の木に留まった小鳥たちの会話を想像し、笑顔を浮かべるシーンは印象的だ。
(熱で寝汗を掻いて、寝床から出てタンスから着替えを出して着替えるシーンが、ものすごくリアルだ)
「大部屋」も、心臓病を患った人々が入院している病院の大部屋の様子を描いているのだが、これもリアルだ。(髪をぼうぼうに伸ばしている青年は、楠本人だろうか?)
病院に出入りする床屋と果物屋。執刀医への心づけ。他の患者や医師たちの噂話。
病院に出入りする床屋と果物屋。執刀医への心づけ。他の患者や医師たちの噂話。
添い寝している寝相の悪い女性の足にドギマギする患者。
死んだ病人の遺品を無言で片づける看護師。
最後に、髪の毛も切ろうという気力もないほど、病状が悪化した青年(楠本人?)の姿が印象的だ。
楠のもっとほかの作品を読みたいのだが、絶版状態になっているらしい。
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