楠勝平の作品をもっと読みたいと思い、色々と探してみたが、すぐに読めたのは、筑摩選書「1968[3]漫画」に収められている「臨時ニュース」だけだった。
この「1968[3]漫画」だが、「楠勝平コレクションで、山岸凉子が語っていた前衛的な作品が多く載っていたという「ガロ」の掲載作品が多くまとめられていた。
佐々木マキ、つげ義春、水木しげる、赤塚不二夫、藤子不二雄Aの作品などなど
(村上春樹が書いた「佐々木マキ・ショック・1967」という短文も収められている)
これらの作品群の中で、楠勝平の作品は、ある意味、もっとも地味でまともな内容だった。
なかよく暮らす父と娘と息子の3人家族。
そんな家族に突然災難が起こる。
娘が居眠り運転をしたタクシー運転手のせいで事故に遭い、びっこになってしまったのだ。
保険金の支払いと示談で話は進むが、父親が内心抑えている怒りを表すかのように、飼っている黒い犬は不気味な唸り声をあげる。
父親はある日、駅で偶然、そのタクシー運転手の男を見つけ、家まで付けるが、男の普通の家庭生活を垣間見、男を問い詰めてどうにかしてやろうという攻撃性は鎮まる。
最後に、犬を連れた父親とギター教室に行くびっこを引く娘が笑顔で散歩しているシーンがある。父親に連れられた黒い犬はやはり、うなり声をあげているが、その声は前に比べるとずいぶんと弱まっている。そこに肩にラジオを下げた男が通りかかる。ラジオからは、北京で日中親善団員58名が民兵に虐殺されたという臨時ニュースが流れる...という物語だ。
色々な解釈ができる物語だが、私には、家族を傷つけられた怒りを抑え、暴力の連鎖を断ち切り、娘と幸せそうに散歩する父親の姿と、北京で起きた凄惨な虐殺事件は実は紙一重の出来事だったということを暗示しているように思えた。
楠が江戸期の作品だけでなく、こうした少し政治的な作品も書いていたという点で意外だった。(1968年という時代は、そういう時期だったんでしょうね。)
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