ナボコフの最初の長編小説といわれる本書。
ベルリンの亡命ロシア人が集う下宿屋に住む二十五歳のガーニン。恋人のリュドミーラとの関係にも飽き、倦怠感がただよう下宿屋にも嫌気がさしていたころ、隣の部屋に住みだしたアルフョーロフの部屋で、まもなくベルリンに出てくる予定であるという彼の妻の写真を見せられる。
それは、ガーニンが十六歳の時の初恋の相手 マーシェンカだったという物語だ。
それから、ガーニンが追憶する十六歳のマーシェンカの姿や恋愛が描かれるのだが、このあたりの描写は、後の作品「アーダ」にも似ているし、現在のマーシェンカの姿というより、少女の時の彼女への思い以外描かれていないという意味でも、後の「ロリータ」につながるような要素があふれている。「亡命者」という設定もそうだ。
本書でも細緻な技法がさまざまに用いられていることが解説に書かれているが、おもしろいのは、ナボコフが本書を「イモムシ」と呼んでいたことだ。
まだ蝶に成長しきれていない幼虫のような作品だったということをナボコフ自身、認めていたということだろう。
そして、ある意味、衝撃のラスト。
しかし、ガーニンの決断は賢明なものだったのではないかと思う。
ラストシーンで感じられる過去より前に向かっていくガーニンの姿は、妙にすがすがしくて、ナボコフ作品のなかでは特別なものに感じられる。
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