2020年2月2日日曜日

掃除婦のための手引書/ルシア・ベルリン

読んでいて、記憶に突き刺さってくるような作品が多い。
読んだ後で、場所と人物と一つの光景がふっと浮かび上がってくるのだ。
ストーリーではなく、映画のワンシーンのような。

例えば、コインランドリーをテーマにした短編。
わたしはインディアンたちの服が回っている乾燥機を、目をちょっと寄り目にして眺めるのが好きだ。紫やオレンジや赤やピンクが一つに溶け合って、極彩色の渦巻きになる。(エンジェル・コインランドリー店)
「百年」男がぼそっと言った。「百年だとよ」わたしも内心同じことを思った。百年。わたしたちの洗濯機が体を小刻みに揺すり、脱水の小さな赤いランプがいっせいにともった。(今を楽しめ)
あるいは救急救命室の看護師の仕事。
頑としてストレッチャーに乗ろうとしないので、わたしがキングコングみたいに抱えて廊下を運んでいった。彼はおびえて泣いて、涙でわたしの胸が濡れた。(わたしの騎手)
個人的には、「喪の仕事」 が記憶に突き刺さった。
掃除婦として亡くなった老人の家の片づけをする話なのだが、老人の息子と娘とやり取りしながら遺品を整理していく過程が面白い。その人の死を不思議と強く感じる場面なのかもしれない。
どちらにしても悲しいのは、あっという間にすべてが済んでしまうことだ。だって考えてもみて。仮にあなたが死んだとして、あなたの持ち物をぜんぶ片づけるのに、わたしならものの二時間とかからないのだ。
(喪の仕事)


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