2018年1月8日月曜日

わたしたちが孤児だったころ/カズオ・イシグロ

「孤児」とは、親のない子、みなしごのことだが、タイトルにある「わたしたち」とは、主人公のクリストファー・バンクスと彼が養子に引き取ったジェニファーのことを意味しているのだろう。

でも、この物語を読み終えると、常に自分が輝く場所を求め、社交界をさまよっていたサラ・ヘミングスも「孤児」のようだし、アヘン戦争をめぐるイギリスと中国の関係に翻弄され、過酷な運命を辿ったクリストファーの両親や、日中戦争に翻弄されたアキラも「孤児」のように思える。
フィリップおじさんさえ、「孤児」と言えるのかもしれない。

その孤児たちの運命を知るため、失踪した両親を探すために私立探偵となったクリストファーに過去の記憶を遡らせ、決して戻ることができない現在につなげるという手法は、「追憶」を得意とするカズオ・イシグロらしい物語だと思う。

さらにいえば、タイトルにある「孤児だった」という過去形になっていることが、この物語の穏やかな終わりを暗示していると思う。

しかし、これは本当に英語を母国語にした作家の作品なのだろうか。

私は、まるで、近現代の時代に置き換えられた「安寿と厨子王」を読んでいるような気分になった。

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