(横尾忠則デザインの表紙がいい)
新選組が好きなのか、司馬遼太郎が好きなのか、たぶんどちらも当てはまるのだと思うが、読んでいて飽きない。
幕末は、日本刀をもって武士が闘うことができた最後の時期で、その締めの打ち上げ花火のような役割を、結果として新選組が果たした。
しかも、その新選組の中心人物は、武士でもない農民出身の局長 近藤勇と副長の土方歳三だったことも面白い(もう一人の中心人物 一番隊長の沖田総司は武士の出身だったらしい)。
この幕末における特殊警察隊は、多いときには200名ほどの隊士がいたが、様々な人々が入っては消えた(大体が仲間内で殺された)。
「血風録」でも、土方が作った「法度」により、大物幹部が粛清される話が多く取り上げられている。
「油小路の決闘」における、インテリ風の伊東甲子太郎とその仲間たち
「芹沢鴨の暗殺」における、酒乱狂暴な剣豪 芹沢鴨とその仲間たち
「鴨川銭取橋」における、時勢に乗り遅れ、焦り、薩摩に通じてしまった武田観柳斎
「槍は宝蔵院流」における、近藤勇の養子問題でしくじった槍の谷三十郎
「燃えよ剣」でも山南敬助が切腹させられているが、この他多くの平隊士が「士道不覚悟」などの罪で切腹に処せられた。
こんな暗い内部粛清を繰り返した組織には本来魅力はないはずだが、隊の結束を緩めず滅びゆく徳川幕府の屋台骨を旗本でもない新選組が支えたことが、人の心を打つのかもしれない。
なお、本書には、大島渚の遺作となった「御法度」の原作である「前髪の惣三郎」と「三条磧乱刃」も収められている。
映画は、ほぼ、原作に忠実に作られているといっていい。
しかし、外国人には、歴史の背景が理解できないと、何の物語なのか、よく分からなかったでしょうね。
(坂本龍一の音楽がいいですね)
映画では、閉鎖された組織における歪んだ同性愛の雰囲気が濃厚に描かれているが、原作では、どちらかというと、井上源三郎のいかにも田舎の中年男の人の良さと沖田総司の利発な子どものような清潔感が漂っている。
こういう場違いに善人めいた隊士がいたことも新選組の人気を支えている一つの要因なのだと思う。
司馬遼太郎が書いた、その他の新選組の短編としては、沖田総司が脛打ちの柳剛流に苦闘する「理心流異聞」と、これまた、土方に間接的に粛清される隊の幹部である松原忠司を描いた「壬生狂言の夜」があるので、興味がある人はぜひ。いずれも、「アームストロング砲」(講談社文庫)で読める。
脛打ちの柳剛流については、下品な剣術と言われたが、その防ぎ方が分からないと、思わぬ番狂わせが生じるほどの戦力になったらしい。
「燃えよ剣」でも、土方が脛打ちで、上段者の体勢を崩し、斬り殺す場面が出てくる。
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