2016年2月22日月曜日

堤中納言物語 中島京子 訳/日本文学全集3

平安時代後期の公家の生活を題材にした説話集。

十の短編と一つの断章で構成されているのだが、どの物語も、そこはかとないユーモアの雰囲気が漂っている。

「美少女をさらう(原題:花桜折る中将)」は、イケメンの中将が気に入った姫君をさらおうとして、間違って、その祖母を連れて来てしまったという物語。

「お香つながり(原題:このついで)」は、春の長雨を眺める女房らが、無聊のなぐさめにと、他愛のない話を順番に披露する物語。

「虫好きのお姫様(原題:虫愛づる姫君)」は、毛虫を可愛がるちょっと変わったお姫様の話だ。虫好きで、身のまわりにいる童たちに、ケラ男、ヒキ麿、カナヘビ、イナゴ麿などと、虫の名前を付けて、召し使っていたという。世話をする女房達とのギャップが読んでいて面白い。続編が読めなかったのが残念だが、この話が基になって「風の谷のナウシカ」が作られたというのだから、ある意味、偉大な作品なのかもしれない。

「恋も身分次第(原題:ほどほどの懸想)」は、小舎人童と少女がつきあい始め、その先輩の若者が小舎人童と少女の関係を利用して、少女が宮仕えしている女房に言い寄り、その若者に来た手紙を見た主人の頭中将が、少女と女房が仕える姫に言い寄るという恋愛の連鎖を書いた物語。

 「一線越えぬ権中納言(原題:逢坂越えぬ権中納言)」は、権中納言という、これまたイケメンの男が、思いつめていた姫の部屋に強引に入り込むが、根が優しいのか、姫に遠慮して一線を超えられないという物語だ。そのくせ、部屋から立ち去ることもできない変に融通のきかないところは、現代の若干ストーカーの匂いがする男子の走りかもしれない。

  「貝合」は、身寄りの少ない姫君が、貝合わせという、貝がらの美しさや珍しさを競うゲームを、別の姫君と争うことになり、貝が見つからないと騒いでいる召使の少女少年たちを気の毒に思った蔵人少将が貝がらを用立ててあげるという話。

 「姉妹二人に少将二人(原題:思はぬ方にとまりする少将」)は、姉妹二人とそれぞれの相手となる二人の少将と、歌を交わし、いざ会うとなった段階で、姉が妹の少将に、妹が姉の少将のところに運ばれてしまい、関係を結んでしまったという、なんとも情けない話だ。ただ、姉妹二人は悲嘆にくれ、少将二人はまんざらでもなかったというところが面白いかもしれない。

 「花咲く乙女たちのかげに(原題:はなだの女御)」は、色男が、女房たちが歌詠みをしている庭にこっそりと入り込み、その歌を聞きながら、自分と契った女、関係を持てなかった女、才気がある女と振り返ることで、実は女のほとんどが色男と何らかの関係があるということが分かる物語だ。

 「墨かぶり姫(原題:はいずみ)」は、妻がいる男が新しい女と二人目の妻として関係を持ち、それに気づいた古い妻が自ら身を引き、侘しいあばら家に引越す姿を見て哀れに思い、男の愛情が復活する。そのため、来なくなった男がたまたま現れた際、新しい女は、慌てて化粧をした際、間違って墨を顔に塗りまくり、男に愛想を尽かされるという、これもちょっと笑える物語だ。今はやりの不倫の話だが、若干、勧善懲悪の匂いがする。

「たわごと(原題:よしなしごと)」は、僧侶が山籠もりする際に、人から物を借りる際に、色々な物をおねだりするという内容のふざけちらして書いた手紙だ。これだけ物の種類を知っているところを見ると、本当に欲深な坊さんなのかもしれない。

いずれの作品も、平安時代の貴族ののほほんとした、ゆるい雰囲気が伝わってくる。

ちなみに、タイトルの堤中納言(藤原兼輔)は、実在の人物であるが、この物語には一切関係してこないというところも、いい加減な感じでよい。

0 件のコメント:

コメントを投稿