百二十五段からなる歌物語。
物語中の“男”は、在原業平と言われている。
文章としては、どれも短いのだが、物語に伸縮性があると感じるのは、やはり和歌の存在だろう。
本書では、導入部分と終わりの文章は現代語訳されているが、和歌については原文をあえて載せ、その横に訳が配置されている。
そのやり方は正しいと思う。
男と女のやりとりをめぐる想いを託す表現方法としては、これほど高度なものはないかもしれない。
恋愛にありがちな幼稚で露骨な表現を避け、美しい詩に想いの奥深さを籠める。
そこで歌われている様々なかたちの恋愛のどれかは、今読んでも、身につまされるものがある。
読者は、川上弘美の大胆な訳も楽しむこともできる。例えば、 三十段。
(原文)
むかし、男、はつかなりける女のもとに、
逢ふことは玉の緒ばかり思ほえてつらき心の長く見ゆらむ
(川上弘美 訳)
男がいた。
思いをよせた女は、わずかの時にしか逢ってくれなかった。
その女に、詠んだ。
逢うのは
一瞬
恨みは
永遠
0 件のコメント:
コメントを投稿