ガルシア・マルケスの小説としては、非常に読みやすい本ではないだろうか。
冒頭、マルケスが若かりし日の新聞記者だった頃のエピソードが副えられている。
それは、サンタ・クララ修道院の地下納骨堂の遺骨撤去作業を取材した際、22メートルもの長さの髪を有していた少女の遺骨が発見されたというものだ。
マルケスは、子供のころから祖母に聞かされていた、狂犬病にかかって死んだが、数多くの奇跡を行った長い髪を花嫁衣装の尾っぽのようにひきずる十二歳の侯爵令嬢の伝説を思い出し、その遺骨が少女のものではないかという思いつきを得る。
この嘘のようなエピソードをもとに描かれた少女の物語は、実に面白い。
黒人奴隷貿易港がある街で、十二歳になったばかりの侯爵令嬢が野良犬に噛まれる。
傷もたいしたことがなく、周りもそのことを忘れてしまうが、ある日、放浪のインディオ女が、狂犬病の悪疫が迫っていること、そして、令嬢が狂犬に噛まれた事実を告げる。
それをきっかけに、父である侯爵はほとんど見捨てていた令嬢を急に意識しはじめ、彼女のために、死者をよみがえらせた逸話を持つ異端審問の疑いもかけられている医師に診察させ、彼女が狂犬病にかかっていることを知らされる。
しかし、本当に彼女が狂犬病に侵されたかどうかははっきりとしない。
むしろ、かかったと思い込んだ侯爵が彼女に施したさまざまな治療(怪しい医療行為、呪い師の儀式)で、健康が悪化し、本当に悪霊付きのような状態になってしまい、しまいには、悪霊退治のためにサンタ・クララ修道院に送られてしまうことになったのではないか。
黒人奴隷の生活習慣になれていた少女は修道院でも自分の居場所をみつけ、したたかに振る舞うが、それが原因で修道院側が悪魔付きとみなし、独居房で酷い扱いを受ける。
やがて、少女の存在を気に病んでいた司教が目をかけていた図書室司書が、不思議な夢を見たことをきっかけに彼女を救う任務が与えられる。
司書は彼女を何度か見舞ううちに、彼女に恋し、新たな悲劇がはじまる。
猥雑で蠱惑的で純粋で残酷。でも、イメージが美しい。
ガルシア・マルケスの作品は難解なものが多いと言われているが、意外と映画化に向いているのではないだろうか。
それと、短編「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」でも感じたが、マルケスは、少女の物語を描くのがとても上手い作家だと思う。
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