猿山は、隣の烏県にあり、歩いて三日もかかり、途中で他人の家にも泊めてもらわなければならない。
敏菊は、乾燥食を背負い、斉四爺に連れられ、暗い夜更けに出発する。
大通りでは、荷を運ぶ一輪車があふれ、彼らにぶつかってくる。
暗い空では鳥が格闘し、血が降ってくる。
泊めてもらおうとする家でも満足に休めず、次第に斉四爺の態度も冷たくなってくる。
友達の永植も猿山を目指し烏県にいるようだが、片足を失っている。
敏菊の父も猿山に行ったことがあるらしいが、いつも考え事にふけっており、「末世の風景だな」とつぶやく。
敏菊は猿山どころか、烏県に辿り着いたのかどうかも分からず、そして暗い夜は一向に明けない。
猿山には何があるのか?
敏菊はなぜ猿山に行こうとするのか?
なぜ皆が敏菊に冷たいのか?
そういった疑問も暗闇に吸い込まれていくような小説だ。
作者の残雪(ペンネーム)は、1953年に中国湖南省に生まれ、父は新聞社の社長であったが、残雪が四歳のときに、極右のレッテルを貼られ、母も連帯責任を負わされ、以後20年間、文化大革命が終わるまで様々な差別迫害を受けた。
池澤夏樹編集の世界文学全集には、上記の「暗夜」のほか、「阿梅、ある太陽の日の愁い」、「わたしのあの世界でのこと-友へ」、「帰り道」、「痕」、「不思議な木の家」、「世界の桃源」が収められている。
どれも不条理が支配する奇妙な話ばかりだが、これらの小説に書かれた人々は世界のどこかに実在しているような気がする。
たとえば、最近事件が起きた山口県の山間の集落の雰囲気と、「痕」で描かれた世界は繋がってはいないだろうか、と感じさせるものがあった。
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