サリンジャーの初期の中編小説。
ドイツ人男爵の娘として裕福な家庭で生まれた主人公のコリーンは、十一歳の誕生日に、好きだった少年フォードをパーティーに招待していたが彼は来なかった。
探しに行ったが、彼は無教養な母親に連れられ、その日に街を去ろうとしていた。
十九年後、雑誌社に勤めていたコリーンは、その自分とは正反対の境遇にあった少年フォードの名前を、偶然読んでいた詩集の作者に見つける。
その彼が書いた詩が、この作品のタイトルになっている。
荒地ではなく
木の葉がすべて地下にある
大きな倒錯の森なのだ
コリーンは、十九年ぶりにフォードと再会することになる。
フォードは大学を出て知性を身につけてはいたが、再会の場所が大学そばの小さな中国料理店で、その後のデートが、いつも、三流映画館と中華料理であることからも分かるように、コリーンの生活スタイルとは異なるものだった。
しかし、彼女はそういったものを無視し、彼女を愛していた別の男の警告も無視して、フォードと結婚することとなる。
やがて、フォードに詩の助言をしてほしいという二十歳の大学生と称する女からの手紙をきっかけに、彼らの夫婦生活は大きく変わることとなる。
コリーンがフォードに感じる幻滅、そして、ここでは明示的に表現されてはいないけれど、フォードが感じていただろうコリーンに対する幻滅。それらをちょっとした登場人物の会話や仕草で繊細に組み立てて、残酷なまでに明らかにしていく手法は、いかにもサリンジャーらしい。
タイトルの「倒錯の森」は、色々な意味に解釈できる。
子供の体に大きな傷跡を残しても平気な残酷な母親に対する詩人の深層心理。
詩、芸術の源泉。
幼い初恋の憧憬をいまだ捨てきれない女性の悲劇。
ある意味、サリンジャーの隠れた名品かもしれない。
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