2017年6月5日月曜日

孔雀 三島由紀夫 近現代作家集 II/日本文学全集27

三島由紀夫のような死に方をした作家は、損だと思う。
彼の作品を読んでいていも、どうしても、その影を探してしまうような気がして、落ち着かないからだ。

実際、この「孔雀」も、三島由紀夫の人生というものを感じざるを得ない。

富岡という四十半ばの昔は美少年だったのに、今はその美をほとんど失ってしまった男が、自分が行きつけの遊園地に飼われている孔雀が殺されたことを、刑事から犯人として疑われる。

その孔雀の死をきっかけに、富岡はこう思うのだ。
...富岡はさまざまに考えたが、そうして得た結論は、 孔雀は殺されることによってしか完成されぬということだった。その豪奢はその殺戮の一点にむかって、弓のようにひきしぼられて、孔雀の生涯を支えている。そこで孔雀殺しは、人生の企てるあらゆる犯罪のうち、もっとも自然の意図を扶けるものになるだろう。それは引き裂くことではなくて、むしろ美と滅びとを肉感的に結び合わせることになるだろう。そう思うとき、富岡はすでに、自分が夢の中で犯したかもしれぬ犯罪を是認していた。
この強烈な美意識は、この物語において、孔雀の死が人知れず野犬に襲われて殺されたという結末ではなく、誰か人の目によって目撃され、その殺戮の美が堪能されるところまで求めていたことにもうかがえる。

まるで、三島自身が孔雀であったかのような気がしてならない。

2017年6月4日日曜日

鮠の子・室生犀星 片腕・川端康成 近現代作家集 II/日本文学全集27

室生犀星の「鮠の子」、川端康成の「片腕」は続けて読むと面白い。

前者は、魚に託しているが、若い女性が男たちに付きまとわれ、望まないセックスを経験し、子を宿し、それでも、生むことに懸命になる女性のリアルな半生を描いているのに対し、後者は、女性の右腕を借り受けた男が、その右腕に話しかけたり、口づけたり、一緒に寝たりするフェティシズムの物語だからだ。

どちらも、男の勝手な欲望にさらされる女性の話だが、後者のほうは、女性の顔も、半身すらも求めず、「片腕」だけを完全に愛玩物として取り扱っているところに凄みがあるかもしれない。

谷崎も、女性の美しい足の指の描写など、 フェティシズム的な作品を書いたが、その足の持ち主である女性の顔や性格も具体的なものとして書き、それだけを切り離すという“荒業”は行わなかった。

この辺りが、川端康成の特質すべき点なのかもしれないが、単に個人の性的嗜好だけの問題のような気もする。

2017年6月3日土曜日

その日の午後、砲台山で/平井和正

平井和正が2005年に電子書籍として発表した幻魔大戦の後日談的な作品。

ただし、この作品を皮切りに、「幻魔大戦deep」と「幻魔大戦deepトルテック」という続編が書かれることになった。

この物語は、どこかエッセイ的な感じで、平井和正が自分の半生を振り返っているところから始まる。

紙の本には見切りをつけ、電子書籍にたくさんの作品を書き続けたこと。
その間、日本の出版業界は色褪せ、周囲の人々は老い、星新一も死んだが、自分は常に作品世界の中で若く生き続けていたこと、などなど。

平井和正は、まるで世捨て人のように、現実世界は無意味で小説世界こそ本物の人生であると述懐する。

そして、夢の話になる。

夢の中に、「地球樹の女神」のヒロイン 後藤由紀子が現れ、平井和正自身が、「地球樹の女神」の主人公である四騎忍であることを告げられる。

5歳の四騎忍に変身した平井和正は、後藤由紀子とともに、自身の故郷である横須賀の砲台山を訪れる。そこは、平井和正が十三歳の時に、「地球樹の女神」の原形である「消えたX」という作品の着想を得た場所だった。

そして、四騎忍は、「幻魔大戦」の東三千子と出会い、十五歳の四騎忍となり、木村市枝とも出会い、彼女たちから、失踪した東丈の捜索を依頼されることになる。

面白いのは、四騎忍には平井和正の意識が宿っており、彼の思いが所々に露出するところだ。

四騎忍が語る、東丈失踪後の“幻魔大戦”のその後のエピソードも興味深い。
「ハルマゲドンの少女」でも語られなかった、丈が渡米していた事実や、丈が創設した団体「GENKEN」が会員の減少により自然消滅した事実。

カルト宗教、偽メシア...

ここで語られる 四騎忍のGENKENに対する冷徹な視線は、“幻魔大戦”断筆後、20年近い時間が変えた平井和正の内省的な思いが反映されているような気がする。

そして、東丈の秘書だった杉村由紀とも出会う。

四騎忍は、東丈失踪後、彼女が高鳥に性的に誘惑され、ヤクザの矢頭に襲われるはずだった事件を未然に防ぎ、さらには、東丈のいう事を忠実に守ろうとし、無理をする杉村由紀の生き方自体まで否定する。
これも、時の経過がもたらした作者自身の率直な思いだったのかもしれない。

四騎忍は、アメリカに渡航しようとしていた杉村由紀を連れて、平井和正のもう一つの作品「ボヘミアン・ガラスストリート」の世界に移動してしまうのだった。
 私は、「ボヘミアン・ガラスストリート」は読んだことがなかったが、この作品に出てくる「ホタル」という女性は、なかなか魅力的に描かれているなと感じた。

最後まで読み切っての感想。

四騎忍は結局、東丈を探し出す。
しかし、この物語の重要なところは、そこにあるのではなく、四騎忍に語らせた平井和正の東丈への思いが短く記載された以下のところにあるのだと個人的には思う。 
東丈よりもその周辺の人間たちのほうが興味深い。だいたいおれは救世主など信じないし、東丈がその救世主ではありえないと思っている。もし、救世主なるものが存在するなら、人類を救済するよりは破滅へと導くのではないか。