多和田葉子の作品としては、珍しく、東京の下町 隅田川が舞台になっている。マユコという精神的に不安定な三十代の女性と、ウメワカという源氏名の浪人生の男娼の出会いと別れ。
マユコは、自分の精神的危機をウメワカは癒してくれるように感じ、ウメワカは次第に少年らしさを失いつつある自分の運命を打破してくれる可能性をマユコに感じる。
しかし、マユコが母親のように自分に嘘をついたと感じたウメワカは隅田川の町から姿を消し、マユコは、お寺で聞いた人買いにさらわれて連れて来られた京都の公家の梅若丸の話や、母親に隅田川に突き落とされ溺死した梅若の亡霊の話をウメワカに重ね、会うことを諦めるのだが、もう隅田川を渡る理由がなくなってしまうことを残念に思うところで物語は終わる。
一読して、まるで80年代の唐十郎のドラマを彷彿させる内容だが、マユコが夢の中で東京の上空を飛行し、東京の町並みをまるで老人の顔のように皺の寄った皮膚のように思い、その町の皺にもぐりこむように東京を歩きたいと語っている点が多和田らしい。
不気味な登場人物は何人か立ち現れるが、読後感は不思議と明るい印象が残る。
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