2021年7月11日日曜日

高校生からのフロイト漫画講座/コリンヌ・マイエール=作 アンヌ・シモン=画 岸田秀=訳

精神分析の創始者であるジークムント・フロイトの生涯を漫画で描いているのだが、よくできていて、彼が精神分析で唱えた無意識の存在(錯誤行為、夢、エス・自我・超自我の三層論)や神経症の原因(抑圧、リビドー、エディプス・コンプレックスなどの理論)が、奇妙かつ少し不気味で大胆な図柄で分かりやすく説明されている。

巻末の訳者である岸田秀の小文が分かりやすい。
フロイトが生まれたのは1856年。ユダヤ人として生まれた。
当時のヨーロッパはビクトリア時代の最盛期で、ビクトリア時代とは、分かりやすく言えば、理性の時代だった。

自分を理性で律することが求められ、理性に反すると思われる性の衝動や感情や欲望を非難し、自分の中のそういう衝動の存在まで否定することを強いられる時代だった。そして、ヨーロッパを覆っていたキリスト教もセックスを罪悪として捉える宗教だった。

要するに人間らしい感情を否定し、紳士淑女を気取らなければならない非常に窮屈な時代だった。

その抑圧によって神経症を発した様々な患者の話を聞くうちに、フロイトの精神分析論は発達したということが説明されている。

そして、フロイトが神経症の原因に気づいたのは、彼の才能だけでなく、彼が差別される側のユダヤ人であったことも影響していたのではないかと述べている(差別者の醜い面は非被差別者には丸見え)。

フロイトの理論は常識的なことばかりで、ほとんど民衆の知恵や箴言(例えば、性格形成における幼年期の重要性は、「三つ子の魂百まで」)で説明できるという指摘も面白い。

しかし、岸田秀自身が自らの強迫神経症と鬱病と幻覚の治療のため、フロイトの著書を読み漁ったように、フロイト理論は、生活の知恵として知っておいて損はないものなのかもしれない。

漫画の最後は、フロイトの以下のような言葉で締められているが、精神分析の本にありがちな暗い印象がないというのも本書の特徴と言えると思う。

精神分析の戦いとは、欲望を開放すること
そして、理解しようとすること
もちろん、これらはすべて喜びなのだ
私の名、フロイトは「喜び」という意味だ。忘れないで! 

 

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