2021年7月4日日曜日

嘘だらけのヨーロッパ製世界史/岸田秀

マーティン・バナールの著書「黒いアテナ」は、ヨーロッパ人がヨーロッパ文明の源流であると思っていたギリシア文明が、実はエジプト文明やフェニキア文明から派生したものであるという説を述べているらしく、様々な批判があったらしい。

本書は、そのバナールの主張に対する批判を一つ一つ紹介し、検証しているのだが、岸田秀の考える古代エジプト人は黒人だったという説や、白人は黒人に差別され、追い出された種であるという説、その追い出され、恨みを持ったヨーロッパ人の思想を押し付けられた日本が大日本帝国を作り上げたことを取り上げたことなどを取り上げており、本のタイトルとはほとんど関係ない考えが脱線気味に述べられている。

本書で一番面白かったのは、大日本帝国がかつて理念として掲げていた「欧米諸国による植民地主義からのアジアの解放」という理念を、今は中国や北朝鮮が引き継いでいるのではないかと述べているところだ。

かつて、日本は「アジア解放」の理念を共有する同志を、中国や朝鮮に求めたが、理解されず、彼らを頼むに足らずとみなしていたが、今は全く逆の立場で、中国や北朝鮮が、あれだけ「アジア解放」を主張していた日本が、敗戦後、米国の子分となり、アメリカ的享楽生活にうつつを抜かしていると見ているのではないかという指摘だ。

この本は、2007年に書かれたものだが、現在の中国の立場は、まさに欧米諸国から総スカンを食らっており、この本で指摘しているような対立が実際に起きていることが面白い。
個人的には、香港や新疆ウイグル自治区における人権弾圧の実態を見るかぎり、それは中国が悪いのだという思いが強いのだが、作者が指摘しているような欧米諸国によるアジア叩きという側面も感じる部分はある。
(本書で、米国は日本と中国が同盟関係を結ぶことを最も恐れているという指摘は、たぶん本当だろう。田中角栄はそれで失脚したという説があるぐらいだ)

また、日米戦争について、東京裁判で日本は全面的に悪くアメリカが絶対的に正しかったということを、アメリカは躍起になって証明しようとしていた点を指摘し、

歴史は長い目で見なければならない。日米の道義戦争は、最終的勝負はまだ決まってないのだから。軍事の勝敗は、たかだか当面の利得損失の問題でしかないが、道義の勝敗は、百年先、千年先まで響く国家存立の精神的価値の根拠に関わる問題なのだから。

と述べているのも興味深かった。(日米の戦争が終わっていないなんて、今の日本で誰がそんなことを想起するだろう)


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