2020年11月22日日曜日

セロニアス・モンクのいた風景/村上春樹 編・訳

ジャズピアニスト セロニアス・モンクに関するエピソードを村上春樹が集めて訳した本なのだが面白かった。

無口、奇行が多い、時間を守らない、人に合わせない、ともにプレイするメンバーには高いパフォーマンスを要求する。扱いにくいから孤立しがちで「ビバップの高僧」という名前で呼ばれていた。

彼の曲を上手に表現したジョージ・ウィ―ンの文章がある。

それでもそのメロディー・ラインの複雑さは、それを何気なく扱おうとするミュージシャンたちに——数多くの難題を与える。セロニアスが自作曲のひとつひとつに染み込ませたリズムや、拍子や、間の取り方や、節回しを研究し、十分に理解することなく彼のメロディーを演奏するのは、不可能とは言わずとも、相当むずかしいことだ。しかしいったん音楽の内容と意味を呑み込んでしまえば、その曲はリスナーの前にまったく新たな風景を展開してくれる。それは田舎の道路を行く車のドライバーが、むずかしいカーブや坂道をなんとか乗りきったあと、目の前に美しい田園の光景が広がるのに似ている。

この本を読んで、彼のピアノをYoutubeで聴きながら思ったのは、今の音楽より、はるかに難しい表現を目指していたアーティストが居て、そんなアーティストを受け入れるリスナーやバンド仲間、ジャズクラブ、後援者たちが少なからず居たという事実だ。

この曲は何なのだろう、このアーティストは何をやろうとしているのだろう、一音一音、レコードに耳を澄まし、考えながら聴くという音楽の接し方を非常に懐かしく思った。

あとがきで、安西水丸がニューヨークのジャズクラブでセロニアス・モンクの演奏を聴きに行き、最前列に座った水丸にモンクがタバコをねだり、水丸が持っていたハイライトを一本進呈し、モンクがそれを吸って、「うん、うまい」と言ったエピソードがいい。

(表紙は亡き水丸に代わって和田誠がその時の情景を描いたもの)

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