2016年11月27日日曜日
ザ・議論!/井上達夫、小林よしのり
副題には、「リベラル VS 保守」と書かれているが、「リベラル」とは何か、「保守」とは何かを、すぐに説明できる人は、そうはいないのではないか。
法哲学者の井上達夫氏が語る「リベラル」は、かなり明確な形に見える。
その理由は、具体的な検証基準を2つ備えていることだ。
1点目は、自分が受け入れられないことは、他人にもやらせない(反転可能性)という基準。
2点目は、ダブルスタンダード(二重基準)は、許さないという基準。
例えば、天皇に職業選択の自由も認めず、言論の自由も認めず、「無私」を求めることは、 「反転可能性」の観点から否定される。
また、日本が実効支配している尖閣諸島の問題で、中国に対し、領土問題は存在しないと言いつつ、韓国が実効支配している竹島の問題では、韓国に対し、 領土問題は存在すると主張するのは、ダブルスタンダードであり、許されないという具合。
通常言われる「自由主義」という訳語より、「正義主義」と言ったほうが分かりやすい。
一方、漫画家の小林よしのり氏が語る「保守」は、なかなか捉えにくい。
二人は、天皇制、戦争責任、憲法9条について、それぞれ意見を交わしているが、井上氏と明確に違いが出てくるのは、「天皇制」の維持と昭和天皇の戦争責任いうところだけのような気がする。
どちらの点についても、 小林氏の天皇に対する愛情の深さと民主主義の権威としての期待の大きさが感じられるが、井上氏の「反転可能性」の理論でいくと、とてもお願いできる役割ではない、と感じてしまう。
それにしても、この本は、表紙から受ける印象と違ってかなり内容が深い。
なかんずく、議論が深まっているのは、井上氏の展開する議論の奥行きの深さであろう。
氏の読書量の豊富さもうかがい知れるが、本物の学者が交わす議論というのは、こんなにも面白いものだと改めて感じ入った。
なお、本書では、井上氏が考える憲法改正(案)も掲載されている(なんと、本書が初出らしい)。
9条を削除し、安全保障のため、軍隊を置くかどうかは国会の判断に委ね法律で定め、憲法では、軍事行動を制限する規定を置く。
氏の改正(案)では、徴兵制も盛り込まれている一方、良心的兵役拒否の権利も定められている(但し、代替的公役務の実施が必要)。
氏の改正(案)には、なかなか賛同できない部分があるが、 地方自治の条項で、外国軍隊を駐留させるには、設定される地方公共団体の住民投票で過半数の同意を取らなければならないと定めた改正案は、納得できた。
私としては、氏が次善と評した 専守防衛明記の九条改正+戦力統制憲法規定追加 が妥当な内容かと感じた。
それにしても、本書では、護憲派の早稲田大学の長谷部教授が、特定秘密保護法案の賛成派であったこと(この事実を報道したマスコミを私は知らない)や、同じく護憲派の東京大学の石川教授が井上氏を論拠を示さない形で批判していた事実が赤裸々に語られており、なかなか興味深かった。
井上氏の著書は、素人が読むには、非常に難解なものが多いが、こうして、議論形式で語られる内容は、実に平明達意だ。
今後も、このような形で、自身の考えを語ってほしい。
2016年11月13日日曜日
アメリカ大統領選挙に思う
あれだけ人種差別発言、女性差別発言を繰り返してきた男を、まさか、アメリカ国民が選択するはずはないと思っていただけに、トランプ氏が大統領選挙に勝利したことに大きな衝撃を受けた。
とにかく、自分の生活水準を少しでも良くしてくれるのであれば、差別的言動など構わない
というのが、トランプ氏を支持したアメリカ国民の考え方だとすると気持ちが暗くなる。
自由と平等、民主主義、人権の尊重、どんな人種でも、どんな思想・宗教でも受け入れる多様性。
それが、アメリカが一貫して世界にもたらしてきた価値のはずであった。
その価値の源泉が根元から断ち切られたかのような今回の結果だ。
間違いなく、言えるのは、これからのアメリカの外交政策は、上記のような価値の推進・共有を前提としない、アメリカ第一主義という名の経済活動の場が中心になるということだ。
しかも、それは、Win-Winとは限らない、こすっからい契約交渉かもしれず、コンプライアンスもCSRも無視した事業活動かもしれない。
トランプ氏が、選挙後、いとも簡単に言動を軌道修正している様子を見ていると、確かにビジネスマンという気がする。
自分にとって利益になるものであれば、立場、主義、主張をいとも簡単に変えるのだ。
アメリカの利益になるのであれば、ロシアとも、中国とも手を結ぶだろう。
まるで、フィリピンのドゥテルテ大統領のように。
日本にとっても、これから様々な局面でタフな交渉を迫られることになると思うが、トランプ氏が大統領になることで、大きなチャンスが舞い込んできたとも言えなくはない。
それは、アメリカ抜きの日本というものを真剣に考える、いいチャンスが巡ってきたということだ。
対米追随の国策だけでは、もはや成り立たない時代が到来したと思った方がよい。
内田樹氏の「街場の戦争論」では、日本は主権国家ではなく、アメリカの従属国であると指摘しているが、従属国の政治目標は、「主権の回復」しかなく、そのためには「独立とはどのような状態なのか」を考えないといけない、と述べている。
そして、その手がかりは、敗戦以前の、日本がまだ主権国家だった時の日本人の心の中にしかない、彼らが何を感じ、どんな風に思考していたのかを遡及的に探ることが「主権回復」のためのさしあたりもっとも確実で、もっとも筋の通った処方ではないかとも。
2016年11月8日火曜日
荒戸源次郎の死
彼の名前を初めて知ったのは、鈴木清順監督の「陽炎座」のオープニングで流れるクレジットタイトルの中だったと思う。
この時代がかった名前は、続く、鈴木清順監督の「夢二」、遡って「ツィゴイネルワイゼン」にも現れ、さらに、玉三郎が監督を務めた「外科室」に製作者としてその名前を見たときに、こういった映画を撮るフィクサー的な存在なのではないかと感じたのを覚えている。
個人的に、日本映画の中で一番好きな作品が鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」なのだが、この上映の時(1980年)には、興行のやり方も、東京タワーの下にドーム型移動映画館「シネマ・プラセット」を建てて単館上映するという型破りのものだったらしい。
私は、上記の作品の完成度からして、荒戸源次郎は、てっきり、鈴木清順監督(現時点で九十三歳)と同じぐらいの歳なのだろうと勝手に思い込んでいたのだが、彼の訃報を今日新聞で読み、七十歳であったことを知り、本当に驚いた。
逆算すると、彼は 「ツィゴイネルワイゼン」の製作を、わずか三十四歳のときに手掛けていたのだ。
一体、どんな人だったのだろう。
この時代がかった名前は、続く、鈴木清順監督の「夢二」、遡って「ツィゴイネルワイゼン」にも現れ、さらに、玉三郎が監督を務めた「外科室」に製作者としてその名前を見たときに、こういった映画を撮るフィクサー的な存在なのではないかと感じたのを覚えている。
個人的に、日本映画の中で一番好きな作品が鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」なのだが、この上映の時(1980年)には、興行のやり方も、東京タワーの下にドーム型移動映画館「シネマ・プラセット」を建てて単館上映するという型破りのものだったらしい。
私は、上記の作品の完成度からして、荒戸源次郎は、てっきり、鈴木清順監督(現時点で九十三歳)と同じぐらいの歳なのだろうと勝手に思い込んでいたのだが、彼の訃報を今日新聞で読み、七十歳であったことを知り、本当に驚いた。
逆算すると、彼は 「ツィゴイネルワイゼン」の製作を、わずか三十四歳のときに手掛けていたのだ。
一体、どんな人だったのだろう。
2016年11月6日日曜日
NHKスペシャル 廃炉への道2016 調査報告 膨らむコスト ~誰がどう負担していくか~
福島第一原子力発電所の事故に伴い、3つの大きなコストが発生している。
一つ目は、メルトダウンした燃料デブリを取り出す廃炉作業費用
二つ目は、避難した人達等への賠償費用
三つめは、除染作業費用
番組では、情報公開請求の資料や東電の公開資料等で、独自に試算していたが、
すでに、廃炉費用2兆円、賠償費用6.4兆円、除染費4.8兆円の合計約13兆円にコストが膨らんでいるらしい。そして、今後も、さらにコストは膨らむ見通しだ。
賠償費用については、東電が支払った賠償金分を、国は金融機構から借金し、原子力損害賠償支援機構経由で、東電に補てんしている。借入金だから当然利息も付くわけで、その利息分は、税金で賄われている。しかし、それでもお金は足りずに、東電以外の電力会社にも発電能力に応じて負担金を払わせており、それが電気料金の値上げという形で国民負担となっている。
除染費用については、国が支援機構を通して、東電の株を1兆円買うことで、資金支援している。
将来的に、東電の株価が3倍(1430円)になったところで売却し、その利益で資金の返済を考えているらしいが、素人考えでも、3倍になる見通しなど何処にもない(現在株価415円)。
しかし、除染費用は1兆円ではとても収まらず、費用は日々増加している。
最もコスト増になっている原因は、除染で出たゴミを収納するビニール袋が、この5年で劣化してしまい、 運搬時に、再度新しい袋に入れ替える作業が発生していることらしい。この新しい袋の費用だけで1兆円になってしまうとのこと。
そして、双葉町と大熊町に建設予定の中間貯蔵施設の運営管理も、東電の責任から外して、国が行うことにいつの間にか決まっていたらしい。
廃炉費用については、東電が負担することが原則になっているが、燃料デブリを取り出す費用を当初の見通し2500億円から、数千億円規模に拡大する見通しに改めたらしい。東電はさらなる国の支援を求めているらしく、現在、経済産業省の有識者会議(非公開)で議論されているが、今後、国民へさらなる負担を求めていくことになりそうだという。
番組では、国民負担は7割程度になるだろうと説明していたが、国から国民に対して、コスト負担の説明は全くと言っていいほど行われていない。
個人的な考えとしては、原発事故の費用を国民全体が負担せざるを得ないのはやむを得ないと思う。しかし、国民に何の説明もなく、情報公開もしない会議体で決定するのだけは、止めてほしい。
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161106
一つ目は、メルトダウンした燃料デブリを取り出す廃炉作業費用
二つ目は、避難した人達等への賠償費用
三つめは、除染作業費用
番組では、情報公開請求の資料や東電の公開資料等で、独自に試算していたが、
すでに、廃炉費用2兆円、賠償費用6.4兆円、除染費4.8兆円の合計約13兆円にコストが膨らんでいるらしい。そして、今後も、さらにコストは膨らむ見通しだ。
賠償費用については、東電が支払った賠償金分を、国は金融機構から借金し、原子力損害賠償支援機構経由で、東電に補てんしている。借入金だから当然利息も付くわけで、その利息分は、税金で賄われている。しかし、それでもお金は足りずに、東電以外の電力会社にも発電能力に応じて負担金を払わせており、それが電気料金の値上げという形で国民負担となっている。
除染費用については、国が支援機構を通して、東電の株を1兆円買うことで、資金支援している。
将来的に、東電の株価が3倍(1430円)になったところで売却し、その利益で資金の返済を考えているらしいが、素人考えでも、3倍になる見通しなど何処にもない(現在株価415円)。
しかし、除染費用は1兆円ではとても収まらず、費用は日々増加している。
最もコスト増になっている原因は、除染で出たゴミを収納するビニール袋が、この5年で劣化してしまい、 運搬時に、再度新しい袋に入れ替える作業が発生していることらしい。この新しい袋の費用だけで1兆円になってしまうとのこと。
そして、双葉町と大熊町に建設予定の中間貯蔵施設の運営管理も、東電の責任から外して、国が行うことにいつの間にか決まっていたらしい。
廃炉費用については、東電が負担することが原則になっているが、燃料デブリを取り出す費用を当初の見通し2500億円から、数千億円規模に拡大する見通しに改めたらしい。東電はさらなる国の支援を求めているらしく、現在、経済産業省の有識者会議(非公開)で議論されているが、今後、国民へさらなる負担を求めていくことになりそうだという。
番組では、国民負担は7割程度になるだろうと説明していたが、国から国民に対して、コスト負担の説明は全くと言っていいほど行われていない。
個人的な考えとしては、原発事故の費用を国民全体が負担せざるを得ないのはやむを得ないと思う。しかし、国民に何の説明もなく、情報公開もしない会議体で決定するのだけは、止めてほしい。
http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20161106
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