池澤夏樹は、ガルシア・マルケスが亡くなったときの追悼文に、彼が死んで地球の重力が変わったような気がするという趣旨の文章を書いたが、水木しげるの死を聞いたときは、同じような気分を感じた。
たくさんの妖怪たちや死と隣り合わせだった先の大戦の記憶、そういった今の日本から消えたかのような別世界を、彼はこつこつと書き続けていたような気がする。
それは年々軽くなってゆく日本の重しになっていた、というのは言い過ぎだろうか。
少なくとも、私はそんな気分を味わった。
私が、水木しげるさんの世界に最初に触れたのは、子どもの頃に読んだ少年向けの妖怪辞典のような本だった。
まず、絵が独特な雰囲気を持っていた、彼が描く黒でべた塗りした闇の世界と田舎の風景。
そして、そこに、ユーモアな姿でありながら、どこか何を考えているかわからないような妖怪。
ひょっとしたら、そんな生き物がいるのかもしれないという好奇心と少しの恐怖を抱いたような気がする。
そして、大人になってからの出会いは、「コミック 昭和史」である。
これは、水木さんの作品のなかで一番好きな作品かもしれない。
この作品は、水木さんの重い戦争体験がコアの部分にあるのだが、次々と襲い掛かる不運、暴力、貧乏に決して負けることがなかった水木さんの生きる力というか精神的な余裕が、全編に感じられるところが魅力的だった。
水木さんのような絵を書く人は、もう出ないでしょうね。
また、昭和の巨人が去った。
今までありがとう。水木さん。
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