コロナ禍の中、人との接触を避けるようにと呪文のように何度も聞かされていると、不思議と「濃厚接触」したくなる。
そういった雰囲気をふと味わいたくなって、ひさかたぶりに、藤原新也の「全東洋街道」を読んだ。
この本は、藤原新也が、イスタンブールからアンカラ、黒海、トルコ、シリア、パキスタンを通って、インドのカルカッタ、チベット、ビルマ(ミャンマー)、タイのチェンマイ、上海、香港、ソウル、日本への旅路を綴った旅行記でもあるのだが、非常に多くの写真が収められており、私が「濃厚接触」の雰囲気を感じるのは、とりわけ、この写真からである。
まったく、コロナ禍の中でこの本を読むと、40年前の世界とは言え、まるで別世界のような雰囲気を感じる。街の雑踏の人いきれ、屋台の湯気の匂い、飲み屋の酒やタバコ、香水の匂い、路地裏の饐えた匂い、雨の感触、雨に濡れる人の体温、娼館の花や女の匂い、人間の息や汗や血の匂いをぶわっと感じてしまうような濃密な世界。
1980年代、こういったアジア的情景を抹殺し、すべてを清潔、クリーンにしていく日本へのアンチテーゼとして、この本は作られたと思う。しかし、今読むと、まるで夢のような、幻のようなアンチデジタルの「濃厚接触型世界」がそこには満ちている。
コロナが収まり、こういった世界の一端だけでも感じたい、と心から思う。
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