2018年3月11日日曜日

ゲド戦記VI アースシーの風/アーシュラ・K・ル=グヴィン

ゲド戦記最後の物語 アースシーの風は、死者の悪夢に悩まされるまじない師のハンノキがゴンドで隠居生活を送っているゲドを訪れるところから始まる。

4作目の帰還でゲドと一緒に暮らしていたはずのテナーとテハヌー(テルー)は、新たな王となった レバンネンに呼ばれ、ハブナーにいる。
彼女らが呼ばれたのは、竜たちが暴れだし、人間たちに危害を加えるように原因を探るため、竜のカレシンの娘であるテハヌーに竜との接触を依頼するためであった。

そして、テハヌーと竜の接触により、休戦協定が結ばれることになり、竜の使者として、前作で竜になったドラゴンフライこと、アイリアンが現れる。

アイリアンは、人間が魔法を使い不死を求めたため、世界の均衡が崩れ、竜たちが人間に怖れを抱いていることを明かす。
そして、レバンネンとテナーとテハヌー、アイリアンたちは、竜のカレシンが世界の中心と呼ぶ“まぼろしの森”があるローク島に向かう。

そこで、一行は、ロークの魔法学院の長たちと会い、竜と人間が最初は同じ種類の人間だったのに、別々のものを求め出し、別々の道を歩むようになったこと、また、一部の人間たちが永遠の命を願い、魔法の力で石垣を作り、死者が死ぬことのない世界を作ったことが明らかにされる。その世界は、かつて、ゲドとレバンネンが魔法使いのクモと戦った世界であり、ハンノキが見る夢の死者たちの世界だった。

ハンノキとテハヌー、レバンネンとアイリアンたちがその世界に降りてゆき、石垣を壊そうとする...という物語だ。

この最終巻を読むと、結局、ゲドとレバンネンがクモを倒した後も、まだ、世界は均衡を取り戻していなかったことが分かる。そして、その最後の仕上げは、年老いた男のゲドではなく、若い女のアイリアンと自己の存在に目覚めたテハヌーの力によってなされる。

まるで、3作目の「さいはての島」でレバンネンとゲドで果たそうとした世界の均衡を、女性の力を前面に出して、さらに高みに持っていこうと書き直した作品のような印象を覚えた。

そして、大賢人ゲドの肖像は、まるで幻想だったかのように、一人の女性に愛される普通の男に描き替えられた。この物語の最後に描かれる、ゲドどテナーとの幸せな再会は、作者が最も描きたかった場面だったに違いない。


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