2016年4月24日日曜日

Temptation/PRINCE

プリンスの数あるポップソングの中でも、アルバム“Around the World in a Day”の最後を飾る“Temptation”(誘惑)は強烈なインパクトが残る歌である。

もともと、プリンスは、ロックの持つ猥雑な力をセックスに絡めて表現することに力を注いできたアーティストであるが、人間の性欲のエネルギーをここまで直截にリアルに表現した歌はないと個人的に思っている。

禁句すれすれまで性行為をイメージさせる歌詞、下半身に響けとばかりに猥雑に鳴るギター、激情的なボーカル、あきれるほど自由に、時にふざけちらかすように、ゆったりと、大胆にエネルギーがほとばしる。

曲は、後半に連れ、緊張感を高めてゆく。
プリンスが誘惑(ここでは性的欲望の意味合いが強い)について人々に告白をはじめるのだ。

Temptation
I'm not talkin' about just ordinary temptation, people. I'm talking
About the kind of temptation that'll make U do things.
Oh, oh, temptation.
Oh, darling, I can almost taste the wetness between your...
Temptation, temptation
I'm not talking about any ol' kind of temptation, people, I'm talkin'
About, I'm talkin' about... sexual temptation.
A lover
I need a lover, a lover, I need a...right now.
U, I want U.
I want U in the worst way.
I want U.

その欲望が頂点を迎えたとき、突然、神の声が、プリンスに告げる。

愚かな男よ。それは正しくない。
お前は、正しい理由で彼女を必要としなければならない、と。

プリンスは、そうします、と答えるが、神は、お前には出来ない、今死ぬべきだと非情の宣告をする。
プリンスは悔悟し、 愛はセックスより重要だと悟るが、神に許された気配はない。
彼は、もう行かなければならないと云う。いつ戻って来ることができるか分からないけど。さよなら、と。

プリンスの死を聞いて、彼の死に最もふさわしい歌は、彼が最も活躍した1984年の、ほとんど無敵だった時代に作られた、この曲ではないのかと思った。


2016年4月17日日曜日

宮沢賢治/日本文学全集16

この全集に載っている作品 詩、童話、小説を読んでいると、今まで持っていた宮沢賢治に対するイメージが変わってくる。

なかでも、印象的だったのが、「土神ときつね」、「泉ある家」、「十六日」にみる性を取り扱った作品だ。 「土神ときつね」にみる嫉妬に似たダークサイドな感情は、この人には無縁のものだと思っていたので、特に興味深い。

また、こどもの雪の遭難を描いた「水仙月の四日」と「ひかりの素足」も、並べて読むと、後者の童話的な世界からは遠い、自然は人間を生かしも殺しもするという現実的な描き方が際立つ。

「ポラーノの広場」も不思議な味わいがある作品である。一見、童話のようでもあるが、主人公のレオーノ・キューストが、なぜか、ファローゼたちと純粋な理想に満ちた生活を送らずに、決して幸福とはいえない都会の片隅のような場所から物語全体を振り返っているせいで、現代風な印象を残す。

巻末に、池澤夏樹の「疾中」と 「ポラーノの広場」のよく出来た解説があるので、興味がある方は是非一読してみてください。