本の冒頭に、「福島第一原発の観光地化、どう思う」について、Yahoo Japanの「ニュース意識調査」の結果が載っていて、以下のような結果だったという。
観光地化して風化を防ぐべき が29.9%
観光地化はそぐわない が64.9%
どちらともいえない/わからないが 5.2%
正直、もう少し、賛成の声が大きいかなと思っていたが、やはり時期尚早であることと、「観光」という言葉に、被災地・被災者を見世物にすることへの抵抗感と軽薄感を感じた人が多かったのではないかと思う。
実際、この本でも冒頭で、製作者たちが「福島第一原発観光地化」というタイトルを発表したときに、かなりの批判、反発を浴びたことが書かれている。
そして、その反論として、製作者代表の東浩紀氏は、原発事故という暗いイメージが付いてしまった「フクシマ」のイメージの払拭を図ること、事故をめぐる人々の記憶と関心、遺構の風化を防ぐために、事故後2年という時点だけれど少しでも早くそれらを図るために観光地化を提言したのだということを説明している。
本書では、現在の被災地の状況、2020年(東京オリンピック)までの姿、2035年(事故後25年後)までの姿について、Jヴィレッジ跡地を、巨大なビジターセンターにし、東北観光の拠点にするなどのアイデアが説明されている。
読んだ印象としては、すでに現実に実施されている「チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド」とは異なり、やはりまだ現実感が感じられない部分は正直あった。
やはり、地元の福島の人がこの計画を策定していない点や、汚染水問題も解決していない今ではリアリティが感じられないところが原因だろうか。
本書で強く印象に残ったのは、現在の被災地の状況、富岡町(破壊されたパトカー)、双葉町(「原子力明るい未来のエネルギーの看板」)、浪江町(小学校前の光景)などの写真と、多摩大学大学院教授 田坂広志氏の記事だった。特に以下の部分。
我が国には、あの事故から深く学ぶことをせず、原子力行政と原子力産業の抜本的な改革をせず、ただ原発再稼動に突き進む人々がいます。そのことを考えると、福島事故は決して風化させるべきではないでしょう。
原子力の問題の本質は、究極、高レベル放射性廃棄物の最終処分の問題なのです。福島第一原発の事故は、その最も本質的な問題を白日の下に曝したのです。
私が最も懸念するのは、国民の中に「エネルギー需要を考えたら、原発を稼動させることしかない。事故はあったが、もう原発は事故を起こさないだろう。放射性廃棄物も、どこか捨てるところが見つかるだろう」という根拠の無い楽観的気分が広がることです。それは原発の抱える本質的問題を未来の世代に先送りすることであり、未来の世代に対する無責任であることに気づくべきでしょう。この記事を読めただけでも、この本は買う価値はあると思う。
アベノミクスという浮揚感にのせられ、福島原発事故の記憶も風化し、経済発展のためには原発の再稼動が必要という雰囲気になりつつある現状が怖い。
私が、この観光地化計画に物足りなさを感じたもう一つの理由は、”脱原発”という重要なテーマに全く触れずに「原発事故博物館」などが提案されていることに違和感を感じたのかもしれない。